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海洋アルカリ化は気候変動問題を解決するか?

海洋は現在でも、地球の余分な熱の90%、排出されたCO2の4分の1を吸収しており、気候変動問題の解決に向けた最前線と見なされるようになっていると、フランスのニースにあるビルフランシュ海洋研究所のジャン・ピエール・ガットゥーゾ氏は説明する。

一方、森林再生といった陸上での取り組みは、大気中から比較的少量のCO2を除去するだけで、すでに排出された分を元の場所に戻すことしかできない。森林は伐採されたり焼かれたりする可能性があるため、吸収したCO2を永久的に固定することはまずない。

「排出削減のスピードはまったく十分ではありません」と話すガットゥーゾ氏は、21年1月25日付で気候変動問題の専門誌「Frontiers in Climate」に報告書を発表し、アルカリ化、鉄肥沃化(鉄を使って植物プランクトンの成長を促す)、人工湧昇流(栄養豊富な深海水を上方に循環させる)などの海洋ベースのCO2回収技術について比較・評価している。「そのため、大気中のCO2を除去する技術が必要です。その点で、海洋は最も大きな可能性を秘めています」

ただし、その可能性を現実のものにするには満たすべき厳しい基準があると、専門家は言う。検証可能か(ただし影響を証明するには何年もかかりうる)、スケールアップ可能か(非常に大規模で実行できなければならない)、経済的に実現可能か(必要とされる規模が膨大なため)、永続可能か(保証するのはほぼ不可能)、説明責任が果たせるか(ただしガバナンス機構は存在しない)、そしてもちろん、環境に対して安全かどうかだ。

「(海洋を利用する解決策の中では)アルカリ化は最も大きな可能性を秘めています」とリーベセル氏は言う。「しかし、もっと研究しなければなりません。リスクをある程度理解できるようになるには、あと数年はかかるでしょう。リスクを完全に理解することは永遠にできません」

迫るタイムリミット

地球の自然に大規模な操作を加えれば、予測不可能な被害をもたらすおそれがあるという批判もある。19世紀、オーストラリアにヨーロッパから持ち込まれた13匹のウサギが、わずか半世紀で2億匹まで激増し、在来生物に壊滅的な被害をもたらしたという前例がある。

また、手っ取り早い解決策を編み出せば従来のやり方に戻れるという考え方が広まれば、気候変動対策に水を差し、化石燃料産業を再び活気づけることになると警告する人々もいる。

急激な海水温の上昇、酸性化、酸素欠乏など、気候変動が海洋に及ぼす影響を10年以上研究してきたリーベセル氏は、こうした懸念が出るのはもっともだと言う。しかし、取り返しのつかない気候災害を回避するためには、人類に残された時間は少なく、選択の余地はほとんどないと氏は考えている。

「10年後、私たちは気候目標を達成するために何を採用するかを決断しなければならないでしょう」と氏は言う。「ですから、実際にスケールアップ可能なのはどの選択肢であり、そのリスクやコストや影響はどの程度なのかを明らかにする必要があるのです。この研究を避けても問題は解決しません。解決策を見つけなければならないのです」

(文 PETER YEUNG、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年1月6日付]