検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

温暖化防止の「キーストーン」 海のアルカリ化大作戦

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

ここはアフリカ北西部の沖合にあるスペイン領カナリア諸島、グラン・カナリア島の静かな村。夜明け前の港を科学者のチームが足早に歩いてゆく。目指すは、並んで海に浮かぶ9つの大型試験管「メソコズム」だ。

「急ごう、もうすぐ明るくなる」。目を充血させた研究者が、箱形の重そうな装置を1つのメソコズムの中に沈めた。発光する生物の活動を測定する装置だ。「明るくなってからだと測定値に影響するのです」と説明してくれた。

ウレタン樹脂でできたメソコズムは、8000リットルの海水で満たされ、それぞれに異なる量の石灰岩が混ぜられている。石灰岩は炭酸カルシウムを主成分とする岩で、水に溶かすとアルカリ性になる。

このとき研究チームが取り組んでいたのは、「海洋アルカリ化」に関する世界初の科学的野外実験だ。実験は2021年10月に完了した。人工的に海洋のアルカリ化を促進し、海に二酸化炭素(CO2)を吸収させる方法は、これまであまり検討されてこなかった。しかし、このプロセスが気候変動の流れを変えるかもしれないと期待する科学者は少なくない。

岩が水に溶けてCO2を吸収する反応は、化学的な風化作用として自然の中で普通に起こっている。大地に雨が降り、海へ流れ込むプロセスでも起きているし、海岸線が波に洗われて徐々に浸食される際にも起きている。人工的な海洋アルカリ化の目的は、この作用を促進することにある。

「岩石の風化は常に起きています」と、ドイツ、GEOMARヘルムホルツ海洋研究所の海洋生物学者ウルフ・リーベセル氏は言う。「問題は、この自然のプロセスを大幅に加速することができるかどうかです。私たちはそれをシミュレーションしているのです」

「これは未知の世界への航海です」とリーベセル氏は言う。「まだわかっていないことがたくさんあります。確かなのは、海洋アルカリ化には大きな可能性があるということです。地球を救うための時間的猶予は少なくなっているので、今すぐ検証する必要があります」

大きな可能性

理論的には、粉砕したケイ酸塩岩や炭酸塩岩を大量に海に沈めることで、CO2が吸収されるプロセスを加速することができる。リーベセル氏の推計では、現在、自然の風化によって年間10億トンのCO2が大気中から除去されているが、大規模に風化を促進すれば、年間約1000億トンのCO2を大気中から除去できるという。

人間の活動によって排出されるCO2の量が年間360億トンであることを考えると、その可能性には目を見張るものがある。また、海のアルカリ度を安定させることは、サンゴ礁を海水の酸性化から守ることにもつながる。

しかし、注意すべき点や不安な点も多い。理論上の化学反応自体は単純だが、それ以外のほぼすべての要素が未知数だ。生物多様性への影響は? 砕いた岩は、どこに沈めるべきか? 予想外の結果を招くことはないのだろうか? コストはどのくらいかかるだろうか? 誰が実用の可否を判断するのか? そもそも、リーベセル氏らが検証しているように、この試みはうまくいくのだろうか?

33日間の実験で、研究者たちはメソコズムの海水サンプルを調べた。メソコズム内の海水のアルカリ度は、自然と同等のレベルからその2倍までさまざまに変えてある。水素イオン濃度(pH)からプランクトンの健康状態まで約45のパラメーターが、カナリア諸島海洋プラットフォーム(PLOCAN)とスペイン、ラス・パルマス大学テクノロジーパークの複数の研究室で分析された。

現在調査しているのは、海水のアルカリ化の度合いによって、CO2の正味の吸収量がどのようになるかだ。「海のアルカリ化が進むと、石灰化が起きてCO2の吸収量が減るかもしれないのです」と、ドイツでデータを分析しているリーベセル氏は言う。「けれども高いアルカリ度が維持されれば、CO2は永久に海にとどまることになります。私たちはそれを期待しています」

リーベセル氏のチームはさらなる手がかりを求めて、22年にノルウェーの海で追跡調査を行う予定だ。水生植物がほとんど生育しないカナリア諸島の海とは違い、ノルウェーの海は穏やかで豊かだ。5月から始まる試験では、カナリア諸島での実験よりはるかに大きい容量5万リットルのメソコズムを使用するため、魚をはじめ、より複雑な生物が受ける影響についての知見が得られるはずだ。

実現には高いハードル

こうした実験により、アルカリ化の効果が明らかになったとしても、すべての海域をアルカリ化することは至難の業だ。岩石を採掘し、粉砕し、輸送するには、石炭採掘に匹敵する規模の産業が必要となる。リーベセル氏によると、大気中から1トンのCO2を吸収するには、1〜5トンの岩石が必要だからだ。

散布方法の問題もある。岩石は船から海に投入したり、海岸の砂に混ぜたり、農地にまいたりすることが考えられるが、それぞれに課題があり、コストがかかる。

「岩石は十分にあるので、実施は可能です。ただし、それは途方もない大仕事なのです」とリーベセル氏は言う。

使用する岩石の種類も課題だ。グラン・カナリア島の実験で使われた石灰岩は、豊富に存在するものの水に溶けにくく、実用的には負担が大きい。セメント産業の副産物である生石灰は、豊富にあるだけでなく水にも溶けやすいが、石灰石を燃やして作るため、CO2の排出削減効果は低い。

最も有望なのはカンラン石だ。カンラン石は緑色がかったケイ酸塩岩で、重量あたり生石灰の2倍、石灰岩の4倍のCO2を吸収することができる。ノルウェーでの研究では、このカンラン石が使われる予定だ。

また、米カリフォルニア州の公益法人プロジェクト・ベスタが独自に進めている研究プログラムでは、今後数年間でカリフォルニア州、ニューヨーク州、インド、カリブ海北部の沿岸海域でカンラン石を用いた4つの野外試験を行う予定だ。同社のトム・グリーン最高経営責任者(CEO)は、「カンラン石は世界中にあります。採掘に化学薬品は必要なく、採取するだけなので、世界中の石炭採掘インフラを利用することができます」と話す。

プロジェクト・ベスタによると、カンラン石を使った海洋アルカリ化では、100トンのCO2を吸収するのに3トンのCO2しか排出されないという。また、機械を使って大気中のCO2を直接回収するのは大量のエネルギーを必要とするため、大規模に実行するならカンラン石を使うほうがはるかに現実的だとグリーン氏は言う。「私たちは海の力を活用したいのです」

海洋アルカリ化は気候変動問題を解決するか?

海洋は現在でも、地球の余分な熱の90%、排出されたCO2の4分の1を吸収しており、気候変動問題の解決に向けた最前線と見なされるようになっていると、フランスのニースにあるビルフランシュ海洋研究所のジャン・ピエール・ガットゥーゾ氏は説明する。

一方、森林再生といった陸上での取り組みは、大気中から比較的少量のCO2を除去するだけで、すでに排出された分を元の場所に戻すことしかできない。森林は伐採されたり焼かれたりする可能性があるため、吸収したCO2を永久的に固定することはまずない。

「排出削減のスピードはまったく十分ではありません」と話すガットゥーゾ氏は、21年1月25日付で気候変動問題の専門誌「Frontiers in Climate」に報告書を発表し、アルカリ化、鉄肥沃化(鉄を使って植物プランクトンの成長を促す)、人工湧昇流(栄養豊富な深海水を上方に循環させる)などの海洋ベースのCO2回収技術について比較・評価している。「そのため、大気中のCO2を除去する技術が必要です。その点で、海洋は最も大きな可能性を秘めています」

ただし、その可能性を現実のものにするには満たすべき厳しい基準があると、専門家は言う。検証可能か(ただし影響を証明するには何年もかかりうる)、スケールアップ可能か(非常に大規模で実行できなければならない)、経済的に実現可能か(必要とされる規模が膨大なため)、永続可能か(保証するのはほぼ不可能)、説明責任が果たせるか(ただしガバナンス機構は存在しない)、そしてもちろん、環境に対して安全かどうかだ。

「(海洋を利用する解決策の中では)アルカリ化は最も大きな可能性を秘めています」とリーベセル氏は言う。「しかし、もっと研究しなければなりません。リスクをある程度理解できるようになるには、あと数年はかかるでしょう。リスクを完全に理解することは永遠にできません」

迫るタイムリミット

地球の自然に大規模な操作を加えれば、予測不可能な被害をもたらすおそれがあるという批判もある。19世紀、オーストラリアにヨーロッパから持ち込まれた13匹のウサギが、わずか半世紀で2億匹まで激増し、在来生物に壊滅的な被害をもたらしたという前例がある。

また、手っ取り早い解決策を編み出せば従来のやり方に戻れるという考え方が広まれば、気候変動対策に水を差し、化石燃料産業を再び活気づけることになると警告する人々もいる。

急激な海水温の上昇、酸性化、酸素欠乏など、気候変動が海洋に及ぼす影響を10年以上研究してきたリーベセル氏は、こうした懸念が出るのはもっともだと言う。しかし、取り返しのつかない気候災害を回避するためには、人類に残された時間は少なく、選択の余地はほとんどないと氏は考えている。

「10年後、私たちは気候目標を達成するために何を採用するかを決断しなければならないでしょう」と氏は言う。「ですから、実際にスケールアップ可能なのはどの選択肢であり、そのリスクやコストや影響はどの程度なのかを明らかにする必要があるのです。この研究を避けても問題は解決しません。解決策を見つけなければならないのです」

(文 PETER YEUNG、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年1月6日付]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_