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脳細胞は何歳になっても生み出せる

初めに少し悲しい真実をお知らせしよう。私たちは自然な老化現象として、毎日数千個のニューロンを失っている。過剰なストレス、環境や水や食べ物に含まれる重金属や薬剤といった有害物質のせいで、さらに多くのニューロンを失う場合もある。もちろん、薬物やアルコールの問題、中程度の脳損傷、脳卒中、パーキンソン病やアルツハイマー病などの認知機能障害も、ニューロンを失う原因になる。

次に、少々良いニュースをお知らせしよう。脳には約1000億個のニューロンがあり、これらは体内で最も寿命の長い細胞の部類に入る。大半のニューロンは私たちとともに生まれ、ともに成長し、私たちが死ぬまで生き続ける。したがって、認知機能を長く維持するには、ニューロンの健康を維持することが大切だ。

最後に、素晴らしいニュースをお知らせする。以前は、大人になると新たなニューロンは生まれないと考えられていたが、それが間違いだとわかった。60代でも、70代でも、80代でも、新しいニューロンを生み出すことができる。

新しいニューロンを発生させるプロセスは「ニューロン新生」と呼ばれ、脳の海馬という部位で起きる。脳の奥深くにあるタツノオトシゴのような形をした海馬は、記憶と学習に大きな役割を果たしている。

ニューロン新生は、脳の働きを良くしたいと願うアスリートや若い人たちだけが目指すべきものではない。最近の研究によって、70代、80代、そして90代の人でも、運動、食事、ストレス、睡眠、サプリメントの摂取など、生活習慣を少し変えることで、ニューロン新生を促せることがわかった。アルツハイマー病の患者を含む高齢者でも、若い人と同じくらい新たなニューロンを増やすことができるという研究結果もある。

健康なニューロンが増えれば増えるほど賢明な判断をより早く下せるようになり、集中力と記憶力が向上し、「実行機能」と呼ばれる、行動を制御する高次の認知スキルを維持しやすくなる。脳の老化とはニューロンが死ぬことなので、新たなニューロンを生み出してその欠落を補えば、脳を若返らせることができるはずだ。

脳の性能を上げるには血のめぐりが肝心

認知機能をベストの状態に保つには、脳への「血のめぐりが肝心」であることを、研究が示している。とても単純な話のように思えるが、実行できている人は少ない。実のところ、ほとんどの人は、脳内の血のめぐりがベストの状態ではない。

したがってあなたは、脳の健康に関して二つのことを理解する必要がある。一つは、脳が適切に機能するには、豊かで安定した血流が欠かせないこと。もう一つは、現代の生活習慣の多くが脳内の血流に悪影響を与え、諸々の症状や問題に気づいた頃には手遅れになっていることだ。

人間の脳は、重さは体重の2%しかないが、体内の血液の15~20%を必要とする。酸素と栄養を含む血液を脳の司令塔に送り続けるために、他の臓器への血流がストップすることさえある。

また、脳は筋肉の3倍、酸素を使う。血液は、その酸素をニューロンに送り届けて、ニューロンが効率よく働き、発火し、信号を送れるようにしている。血流が十分でないと、ニューロンは死に始める。

血流は、脳にグルコース(ブドウ糖)も運んでいる。グルコースはニューロンのエネルギー源だ。脳は筋肉と違って、グルコースを蓄えることができないので、血流が十分でないと、脳の組織はエネルギー不足に陥る。しかも、脳は大食いで、体内のグルコースの40~60%を消費する。また、血流はグルコースのほかに、ビタミン、ミネラル、脂肪、アミノ酸、電解質など、脳にとって欠かせない栄養素も運んでいる。脳への栄養と酸素の供給が少しでも減ると、集中力、記憶力、創造力、判断力、マルチタスク能力などの認知機能と気分を司る脳領域がうまく働かなくなる。

脳内の血流には、もう一つ重要な役割がある。それは、脳内に蓄積する老廃物を洗い流すことだ。蓄積すると脳を破壊し、アルツハイマー病の発症に深く関係していると言われているアミロイドベータと呼ばれるタンパク質もその一つだ。

あなたは、頭がぼんやりしたり、集中力や記憶力の衰えを感じたりしても、たいていは、睡眠不足やストレス、食生活の乱れ、甲状腺の機能低下のせいにして、脳内の血流が悪いせいだとは考えないだろう。しかし、なぜ、脳内の血のめぐりが悪い人が多いのだろうか。その原因は、食事、飲酒、睡眠、運動、ストレスへの対処など、現代の生活習慣にあると考えられる。悪い生活習慣はたくさんあるが、そのうちの二つか三つを改めるだけで、脳の健康状態は改善する。

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慢性的ストレスは脳の大敵