更年期症状を改善 いい睡眠のコツ、閉経後の落とし穴
女性のためのカラダ講座(5)
近年社会的な影響も指摘される「更年期」は、閉経の前後5年間を示すもの。多くの女性が不調を感じるが、婦人科を受診しても、婦人科医はすぐさま「更年期障害」と診断するわけではないと、イーク表参道副院長の高尾美穂氏。「婦人科医はいろんな病気を否定したうえで、更年期障害を考えましょうと言います」(高尾氏)。とはいえ診断名が付くまでは、何もできないということではなく、不調の要因を調べながら、並行して治療を開始するケースが多いという。
更年期の様々な症状に対し、自宅で取り組める改善策があれば取り入れたいところだ。前回(「更年期のほてり・うつには運動 睡眠への効果も期待」)に引き続き、睡眠対策やサプリメント活用、ホルモン補充療法などについて、具体策を高尾氏に聞いた。
「手浴」で睡眠の質向上
──前回は運動習慣が有効という話をお伺いしました。運動習慣は徐々に身に付けるものとして、では睡眠についてはどうでしょう。寝付きをよくするためには深部体温を下げる必要がありますが、そのためにすぐにできることはありますか?
高尾美穂氏(以下、高尾) 深部体温を下げるという意味で、以下を試してみるといいでしょう。
1.室温を24~25度に整える。10度程度の寒い部屋と、24~25度の快適な部屋では、入眠までの時間が5分以上違う。快適な温度にしておくことで寝つきをよくする。
2.湿度も大事。深部体温を下げるのには汗をかくことがポイント。体温を下げるため、汗がかけるような40~60%の湿度を保つ。
◆手のひら、足の裏からの熱放散
1.深部体温が下がると睡眠が誘発されるが、そのためには手足から放熱される必要があるので[注1]、できれば素足で眠る。寒くても足の裏を覆う分厚い靴下は履かず、レッグウォーマーなどの足先が出るものにとどめる。
2.冷え性で手足が冷たくなりやすい人は、熱を逃がすことができずに寝つきに時間がかかることが報告されている[注1]。およそ90分前までにぬるめのお湯(38~40度)に10~15分程度入浴すると、末梢血管が拡張して、その後の放熱が活発になる。
3.手軽な「手浴」を活用する。洗面器もしくは洗面台に40~42度くらいのお湯を張り、5分ほど手首までつける「手浴」は、一時的に表面温度を上げることで、そこから放熱する点でも効果的。
[注1]日温気物医誌第 78 巻 1 号 2014 年 11 月「特別講演 1:ヒトの体温調節と睡眠」(内山真、降籏隆二/日本大学医学部精神医学系)
サプリメントは何がいい? ホルモン補充療法のリスクは?
──食生活はいかがでしょうか。更年期の女性に向けたサプリメントが各種ありますが、積極的に取り入れていいのか悩みます。
高尾 食生活では、やはりエストロゲンとよく似た働きをする「エクオール」という成分ですね。これは大豆製品に含まれる大豆イソフラボンに含まれるダイゼインという成分が、腸内細菌によって代謝されて生み出される成分です。ただ、日本人女性の場合は2人に1人はエクオールを産生するための腸内細菌を持っていないことが分かっています。ですので、あらかじめエクオールになった状態のサプリメントが、十分にエビデンスのあるものとして扱われています。
──サプリメントとなると食品扱いですから、安心して摂取できそうです。
一方で、ホルモン補充療法ではっきりと効果が得られるなら取り入れたいところだと思います。ただ、ホルモン補充療法に消極的になる要素として、リスクを心配する声があります。
高尾 ホルモン補充療法のマイナートラブルは不正性器出血、乳房痛、片頭痛などが挙げられます。ただ、マイナートラブルが出た場合にも、投与方法や投与量で調整できます。
また、重大なリスクは大きく2つあるとされています。1つは血栓症のリスクが高まること、もう1つは乳がんリスクが高まることです。ただ、どちらもホルモン補充療法を経口薬(飲み薬)ではなく、塗り薬かシールといった皮膚から吸収させる経皮薬にすることで、血栓症の代表である心筋梗塞や、乳がんのリスクを格段に下げることができると分かっています。このことから、ホルモン補充療法のファーストチョイスは現在、経皮薬になっています。なお、ホルモン補充療法による乳がんリスクは、5年以上の継続で、飲酒を習慣的にする人のリスクと同等とされています。
3回目(「これ更年期障害? 橋本病、心臓病…見逃しがちな病気」)でもお伝えしましたが、女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンとプロゲステロンは 、アップダウンしながら確実に下がっていきます。いずれエストロゲンがほぼない状態で生きていくことは間違いないのですが、減少する過程は緩やかであるほうが楽なはずですよね。アップダウンを緩やかに閉経に着地させる「ソフトランディング」が、ホルモン補充療法のそもそもの目的です。40代に入り、アップダウンが始まったら、ホルモン補充療法を始めていいと思います。
──根性で乗り切れるものではないですよね。
高尾 そうなんです。頼れるものには頼ってほしいですね。なにしろ、30年前に比べれば、安全性も確保されています。科学や医学が進化した今の時代だからこそ、信じて活用してほしいと思います。
閉経後は楽になるが、それまでの生活習慣が露呈する
──更年期を乗り越えるうえで、最後にお聞きしたいのですが、閉経後は、楽になるのでしょうか。
高尾 なります。生理がある年代は、生理周期に合わせてエストロゲンとプロゲステロンの分泌を繰り返す、すなわちアップダウンを繰り返していて、ある意味、嵐に揺さぶられている状態です。出産というライフイベントを経験された方は、妊娠中はエストロゲンが増加するけれど、産後はほぼゼロになるという大嵐を経験します。その大嵐を乗り越え、今度は更年期と呼ばれるアップダウンの大嵐を越えると、「凪(なぎ)」ともいえる閉経を迎えるのです。
ですから、楽にはなるのですが、ただエストロゲンは私たちが気がつかないうちに、例えば血管、骨、肌に様々な良い働きをし、体を守ってくれています。エストロゲンがほとんどなくなると、いわば、若い年代から守ってもらえていない男性同様に、様々な病気のリスクが高まります。
男性の場合、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、心筋梗塞などは、20~40代まで年齢を追うごとに着実に患者数が増えていきます。これが女性の場合は、20~40代の、働く年代においてはほとんどいない。それが閉経後となる50代以降はグッと増加し、70代あたりで男性を追い越します。
ある意味、閉経後はそれまでの生活習慣が露呈する時期でもあるんですね。だからそれまでに、よりよい生活習慣を積み重ねておくと、その先もそこまで怖がることなく過ごしていけるのではないでしょうか。
(ライター 山田真弓)
産婦人科医・イーク表参道 副院長。医学博士・スポーツドクター・Gyne Yoga主宰・産業医。東京慈恵会医科大学大学院修了後、同大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。大学病院では婦人科がん(特に卵巣がん)専門。2003年にヨガと出会い、ケンハラクマ師に師事。ヨガ、アンチエイジング医学、漢方、栄養学、スポーツ医学を多角的に用い女性の心身を様々な角度からサポートする。近著に『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)がある。
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