2021/11/27

では、リングコッドの歯が生えかわるきっかけは何なのだろうか。

実験の2つ目の条件として、この研究では、定期的に餌を与える魚と、何も与えない魚とを比較している。その結果、歯が生えかわるスピードには違いが見られないことがわかった。これは、リングコッドの歯は折れたことへの反応として生えるのではなく、人間の乳歯や大人の歯と同じように、遺伝的なタイミングに基づいて、抜けたり生えたりしていることを示唆している。

リングコッドの歯の生えかわりのスピードには驚かされたと、カー氏も言う。「歯は作るのにも交換するのにも大きなコストがかかるものだという考えがありますが、われわれの研究はこれを覆すものです」。カルシウムが豊富な海水の中では、歯を鋭く保つためにリングコッドがこれを大量に交換し続けるのは、明らかに価値に見合った投資なのだ。

変わり者ではないリングコッド

こうした歯の生えかわりパターンはこれまであまり知られてこなかったが、自然界ではさほど珍しくないのかもしれない。リングコッドの歯は、その数、種類、円すい形の形状などにおいては、ほかの硬骨魚類の歯とよく似ている。そのため、今回の研究はさまざまな系統の多くの種にとってのひな型となり、歯を順次染色する手法は「このパターンを実に美しく定量化してくれます」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の材料科学・工学教授で、魚の歯を含む生体材料の研究を行っているマーク・アンドレ・メイヤーズ氏は言う。

米コーネル大学の生態学・進化生物学教授で、歯の発達を含む魚類の解剖学を研究しているウィリー・べミス氏は、この実験は画期的で、リングコッドのような比較的ありふれた魚の歯の生えかわりについての長年の疑問に答えるものだと述べている。なお、メイヤーズ氏もべミス氏も今回の研究には関与していない。

これまでは、魚類の歯の成長と喪失の割合を推定することは困難だった。「たとえばサメの場合、研究によって得られる最良のデータは汚水タンクの底に落ちている歯を回収して数えたものでした」とべミス氏は言う。そして、サメは落ちた自分の歯を食べているのが観察されていることから(おそらくはカルシウムを回収するため)、このデータは常にやや疑わしいものと考えられてきた。

そのため、今回のリングコッドの研究は、ほかの種にも応用できる手法を示した「重要なもの」だと、ベニス氏は説明する。メイヤーズ氏は、ピラニアで同様の研究を行ってみたいと述べている。

今回の研究結果は、歯というものはわれわれが考えていたほどかけがえのないものではないことを示唆している。抜けた歯を集めるといわれる「歯の妖精」には、教えない方がいいかもしれない。

(文 ELIZABETH ANNE BROWN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月2日付]