日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/11/26

一方で、ライダー氏はカリフォルニアコンドルの単為生殖にはとても奇妙な点があると話している。SB260とSB517の母鳥は異なるが、それぞれオスと一緒に飼育されていた。さらに、どちらの母鳥も、その前後にオスと繁殖を成功させていた。

米サンディエゴ動物園ワイルドライフ・アライアンスで遺伝子保全を統括しているライダー氏は、「いったい何が起こったのでしょうか。まったくわかりません」と言う。「わかっているのは、これが起きたのは一度だけではなく、複数のメスで起きているということです。これからも起きるのでしょうか。そうであってもらいたいと思います」

米サンディエゴ動物園ワイルドライフ・アライアンスの施設で飼育されているカリフォルニアコンドル(単為生殖で生まれたコンドルではない)(PHOTOGRAPH BY KEN BOHN, SAN DIEGO ZOO WILDLIFE ALLIANCE)

何かの異常か、生き残るための手段か

絶滅にひんしているカリフォルニアコンドルのうち、カリフォルニア州、アリゾナ州、ユタ州の空を舞っているのは300羽ほどにすぎない。

前述の論文には関与していないが、米ミシシッピ州立大学で生殖生理学と微生物学を研究しているレシュマ・ラマチャンドラン氏は、これほど数が少ないことを考えれば、生存の手段として単為生殖が使われてもおかしくはないと言う。

他の種においても、危機が迫っている場合に単為生殖が一種の命綱になる可能性が指摘されている。たとえば、絶滅が危惧されているノコギリエイの仲間が野生で単為生殖を使うのは、繁殖相手を見つけることが難しくなっているからかもしれない。

ただし、この説はカリフォルニアコンドルには当てはまらないだろう。まず、問題の母鳥のそばにはオスがいた。さらに、単為生殖で産まれた2羽のオスは、どちらも繁殖できるまで成長するには至らなかった。SB260は2歳に、SB517は8歳になる直前に死んだ。その一方で、カリフォルニアコンドルの寿命は60年に達することもある。ライダー氏は、自家生殖で生まれた鳥には遺伝子の異常があり、若くして死んだのはそのせいかもしれないと考えている。

「興味深いアイデアではありますが、単為生殖が種の進化や保全にとって有意義だという結論を下すのは、時期尚早でしょう」と、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校で進化遺伝子学を研究しているジャクリーン・ロビンソン氏は述べる。「この現象は珍しく、まだわずかしか確認されていません」

そこで今年、ロビンソン氏とライダー氏のグループは、カリフォルニアコンドルの全ゲノムの詳細な解析結果を公開した。これは貴重な遺伝子データで、今後、カリフォルニアコンドルの単為生殖の仕組みを明かす手がかりになるかもしれない。

単為生殖は広く行われている?

科学者たちがもっとも興味をそそられているのは、単為生殖がこれまで考えられてきたよりも広く行われている可能性だ。

2018年に鳥類の単為生殖に関する総説を発表したラマチャンドラン氏は、単為生殖は主に飼育下で報告されているが、野生環境で起きていないと考える理由はないと述べる。「実際に、野生環境での報告が増えるのではないかと期待しています」

ライダー氏も同意見だ。「コンドルで単為生殖が起きたことを確認できたのは、詳細な遺伝子解析ができたからにほかなりません。では、裏庭にいる鳥が単為生殖することはあるのでしょうか? それに答えられるだけの詳しい調査は、まだ誰も行っていません」

しかし、答えがどうであれ、「そうした問いかけは、自然が常に驚きに満ちたものであることを思い出させてくれるものです」とライダー氏は言う。

(文 JASON BITTEL、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月1日付]