父の仕事ぶりに畏敬の念
ところが、少し前に仕事観をテーマにした松山さんのインタビュー(タウンワークマガジン、2016年)を読み、そうしたイメージは払拭されました。好きでやっていることと前置きした上で、「俳優の仕事は生活のためだと思っています」と語っていました。俳優という仕事を「神聖化したくない」とも話していて、それがとても印象的でした。
そのとき、トークバラエティー番組『しゃべくり007』(日本テレビ系、2009年)でのあるエピソードを思い出しました。
それは、松山さんのお父様に関する内容です。新聞配達をされており、毎朝3時に起きて、新聞配達に4~5時間いそしむ生活を続けてきたそうです。松山さんはその事実に触れ、毎日同じようにしっかりと勤め上げているお父様の仕事ぶりに対して「自分にはまねできない」と畏敬の念を隠さずに述べていました。また、新聞配達という職業をリスペクトしていることを明かしていました。
当時の松山さんは24歳の若手俳優です。その軸の定まり方とバランス感覚からは、いずれ実力派俳優として確固たる地位を築きあげるであろうポテンシャルの高さを感じさせられました。
バランス感覚と「鳥の目、虫の目、魚の目」
人はどうしても自分自身の職業を特別視しがちです。もちろん、自分の人生では自身が主人公ですから、自らの仕事に誇りと自負を持つことは大切なのだと思います。しかし、自分とその周囲の世界だけにこだわりすぎてしまうと、いつのまにやら視界が狭くなりかねません。すると、いざ仕事をする際も、バランス感覚に欠けた価値観と判断力のもとで、業務を進める事態になってしまいます。
よく経営者には「鳥の目、虫の目、魚の目」が不可欠であるといわれます。鳥の目とは、空を飛ぶ鳥のように高い所から俯瞰(ふかん)して物事や事態を見渡すこと。虫の目とは、小さな虫のように細部に近づき、細かく実態を探ること。魚の目とは、魚のように潮の流れを知り、時代の流れや時系列の出来事を把握すること。
つまり、(1)大局的な見地に立ち、マクロ的かつ俯瞰的に見回しながら大きな方向性について判断する(2)現場でミクロの視点から足元の実態を細かく把握する(3)全体の流れを読む、ということです。