いきなり重度の肝硬変になってしまう患者も…
コロナ禍になってから、先生の病院におけるアルコールに関する相談数は増えているのでしょうか?
「私が勤務する病院においては、アルコールに関する電話相談の数は、コロナ前とそう変わりません。ただ問題なのは、病院に来たときにすでに重度の肝硬変になっているような人が目立つようになったことです。つまり、肝臓の機能が維持できなくなり、様々な合併症が現れる状態に短期間でなってしまっているということです。一般に、コロナ禍でアルコールの害を受けているのは女性が多いと言われていますが、私の病院では男女問わず、ですね」(垣渕さん)
重度の肝硬変? 短期間でそんな状態に陥る原因は一体何なのだろうか。そしてなぜ女性のほうが多いと言われているのだろう。
「酒量が増え、肝臓の状態が悪くなった理由は千差万別です。コロナ禍では、感染が怖くて、不安から家でひたすら飲んでいたら具合が悪くなり、それでも受診のための外出さえも怖く、そのまま悪化してしまった、という話も聞きます。また、女性の場合は、コロナ禍で職を失った非正規雇用の女性が、不安を紛らわすために酒を大量に飲むようになったケースも多いようです。ただ、悪化する前に病院に来て、減酒を相談する方ももちろんいます」(垣渕さん)

「晩酌をしないと1日が終わらない」は危険なサイン
垣渕さんから見ると、「コロナ禍は断酒・減酒を考えるいい機会」だという。垣渕さんの本を読んで、酒をやめたり減らしたりした読者から、SNSを通じてメッセージをもらうことも増えたという。
それでは、どのような人が断酒・減酒を考えるといいのだろうか。
「酒量が増え続けてしまい、減らしたいのに減らせない人や、休肝日なしに毎日飲む人はもちろん、『晩酌をしないと1日が終わった気がしない』という人、お酒をやめると想像するだけで喪失感や切なさを感じるような人ですね。その喪失感こそが、アルコールへの依存度の強さを表していると思います」(垣渕さん)
「晩酌をしないと1日が終わった気がしない」というのは酒飲みの常套句。これを言っているうちは、なかなか自分の状況を客観視できそうにない。「自分のアルコール依存症のリスクを判断するために試してもらいたいのが『AUDIT(オーディット)』です」と垣渕さんは言う。
「AUDITはWHOが開発したスクリーニングテストです。肝臓の数値が悪化したり、お酒による人間関係の悪化や、仕事に穴を開けてしまうなどの社会的な問題が重なったら、まずはAUDITで自分の状況を客観視してみましょう。その結果を見て、断酒や減酒を検討すればいいと思います」(垣渕さん)
AUDITは厚生労働省の「e-ヘルスネット」に掲載されている。質問は10個。「あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?」、「飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか?」、「過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?」といった質問がある。
結果は0~40点で示される。7点以下は「問題ない飲み方」(ローリスク飲酒群)、8~14点は「有害飲酒」(ハイリスク飲酒群)、15点以上は「危険な飲酒」(依存症予備軍)、20点以上「早急な治療が必要」(依存症群)となる。
ちなみに筆者は12点で「有害飲酒」だった。「飲酒は週2回」と決めたものの、まだまだ危険性をはらんでいるようだ。確かに年末の飲み会で、酔っぱらって人の靴を履き間違えて帰宅する失態をおかしてしまった(恥)。
それでも完全に酒をやめようとは思わない。いや、酒飲みの多くは、自分の状況を知ってもなお、なかなか断酒・減酒を実践できないように思う。「わかっちゃいるけどやめられない」というやつだ。