日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/2/28
キュリオシティの自撮り写真(NASA/CALTECH-JPL/MSSS)

また、クレーター内のメタンガスが、季節の変化とともに増減を繰り返し、さらに不定期に急増していることもわかった。この現象は、10年以上前から地球上の望遠鏡で観測されていたが、原因はわかっていなかった。地球におけるこのような変動は、代謝を行う何かが存在する有力な証拠となる。

しかし、これらの観測結果のどれをとっても、今のところ生命活動との関連までは見出されていない。まだ完全に理解されていない何らかの過程が、生命の痕跡を模倣している可能性もある。

「地球の表面で、炭素が関わっている活動のほとんどは生物学的なものです。ですから、考え方を変えて、それが事実ではない世界のことを想像しようとするととても難しいです」とハウス氏は言う。「いったん地球中心の考え方から抜け出せれば、火星で起こることの可能性について理解できるようになるかもしれません」

謎の紫色のコーティング

そこから約3700キロ離れたジェゼロ・クレーターでは、別の探査車「パーシビアランス」が、クレーターの広範囲にわたって、岩石が奇妙な紫色の物質でコーティング(被覆)されているのを発見した。この被膜も、地球の砂漠で、微生物が存在する岩の表面に見られるものとよく似ている。

サンプルを採取するために、キュリオシティがドリルで空けた穴(NASA/CALTECH-JPL/MSSS)

この被膜を調査している米パデュー大学のブラッドリー・ガルジンスキー氏は、これまで探査車が火星で発見したどんなものとも異なっていると話す。ただし、火星の別の場所では違う種類の被膜が発見されている。

地球では、岩石を食べる微生物が繁殖する砂漠で、似たような皮膜がよく見られる。

月惑星研究所の宇宙生物学者で、火星と似た地球の環境を研究しているケンナ・リンチ氏は、ジェゼロ・クレーターの被膜に生命の痕跡が見つかったとしてもおかしくはないと話す。「微生物は驚くようなことをやってのけます。石を食べるのが好きな微生物でしたら、石の表面に被膜を作ります」

地球でこのような被膜が形成される環境については多くのことが知られており、それが、観察結果を適切に解釈するために重要な役割を担っていると、リンチ氏は付け加える。この地球においてさえ、これが生命によって作られたのか、それともそれ以外の過程によって形成されたのかを知るには、徹底的な分析を必要とする。はるか遠く離れた火星でそれをやろうとするのは至難の業だ。

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サンプルリターンへの期待