法律違反の可能性
壁の建設は、複数の環境に関する国内法だけでなく、拘束力を持つ重大な国際協定にも反していると、法律の専門家は言う。
たとえば、ビャウォヴィエジャの森はユネスコの世界遺産に登録されている。取り決めの一環として、ポーランドは世界遺産条約による制限に従わなければならず(これにより同国はバイソンなどの生物を保護する義務を負っている)、またベラルーシ側の森の環境を損なわないようにしなければならないと、オランダ、ティルブルフ大学の環境法専門家アーリ・トラウボルスト氏は説明する。
壁の建設により、ユネスコが森の世界遺産登録を取り消すことも考えられ、これは国と地域にとって大きな打撃となる。歴史上、自然遺産がユネスコのリストから外された例は一つしかない。
「いずれにせよ、保護対象の野生動物が通れるような対策をとらずに国境沿いにフェンスや壁を設けることは、法律に違反していると思われます」とトラウボルスト氏は言う。
欧州司法裁判所にはすでに、ビャウォヴィエジャの森での活動について裁定を下した実績がある。ポーランド政府は16年から18年にかけて、キクイムシがついた木を取り除くために森の一部を伐採した。しかし18年4月に司法裁判所がこれを違法としたことから、作業は中止された。それにもかかわらず、ポーランド政府は今年、ビャウォヴィエジャ周縁での伐採を再開したのだ。
世界で進む壁の設置
壁の設置を進めているのはポーランドだけではない。世界では国境の壁が増える傾向にあり、数十年にわたる環境保護活動、とりわけ国境を越えた協力的なアプローチによる活動の成果が台無しになる恐れがあると、ノルウェー自然研究所の生物学者ジョン・リンネル氏は言う。
近年壁が建設されたことで特に注目を浴びている場所としては、米国とメキシコの国境、スロベニアとクロアチアの国境、そしてモンゴルをぐるりと囲む境界線などがある。EUでも、今では多くの地域がフェンスに囲まれている。
これまで100年近くにわたり、国家間でのつながりや協力関係が築かれてきた末に、壁の建設が大幅に増加しつつあることは、多くの保護活動家を驚かせた。ヨーロッパにおいては、そうしたつながりは特に重要だ。なぜなら、植物や動物の個体群が国境を越えて広がっており、どこの国も自国だけですべての保護目標を達成できるほどの面積を持っていないからだ。
壁の建設ラッシュは、「生息地の断片化がかつてないほど進んでいる」ことを意味していると、リンネル氏は言う。同時にこれは「国際的な協力関係が崩壊しつつあることも示しています。ナショナリズムへの回帰が見られ、各国は環境へのコストを考えずに、問題を国内で解決しようとしているのです」
「ここに示されているのは、外的な力がこれまでの保護活動の成果を台無しにしてしまう恐れがあること、また、その成果がいかに脆弱であったかということです」
(文 DOUGLAS MAIN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月3日付]