こうした事態にポーランド政府は、21年9月2日に非常事態宣言を発令した。ベラルーシとの国境に近い多くのポーランドの町では移動が厳しく制限され、観光客や援助活動家、ジャーナリストなど、地元に住んでいない、またはそこで恒常的に働いていない人はだれであれ、町に入ることも、通り抜けることもできなくなった。
ポーランド政府はすでに、ビャウォヴィエジャの森と周辺の国境地帯の広範囲に、高さ約2メートルの鉄条網を設置している。報道によると、バイソンやヘラジカなどの動物が、このフェンスにかかって逃げられなくなったり、死んだりしている例がすでにあるという。
「多くの動物にすでに悪影響が及んでいるでしょう」と、ポーランド科学アカデミー哺乳類研究所を率いる生態学者のミハウ・ズミホルスキ氏は言う。さらに多くの壁が設置されれば、「森は半分に切断されてしまうも同然です」

一部の科学者は、壁の建設を中止させようと、EUの政策執行機関である欧州委員会宛の公開書簡を発表している。
ヨーロッパの至宝、ビャウォヴィエジャの森
ビャウォヴィエジャの森の大半は1400年代から保護されており、一帯には広大な低地原生林が広がっている。かつてヨーロッパは、ウラル山脈から大西洋に至るまで、こうした森に覆われていた。「ここはヨーロッパの至宝です」とノヴァク氏は言う。
樹齢数百年のオーク、トネリコ、シナノキが、自然のままの密集した低木層の上にそびえている。この森には、あわせて1万6000種を超える多様な菌類と無脊椎動物のほか、59種の哺乳類と250種の鳥類が暮らしている。
ポーランド側の森では、約700頭のヨーロッパバイソンが、低地の谷や森の空き地で草を食んでいる姿が見られる。100年かけてここまで数を復活させてきた貴重な個体群だ。このほか、オオカミ、カワウソ、アカシカ、そして絶滅が危惧される十数頭のオオヤマネコもいる。通常、こうした動物たちはベラルーシとの国境を越えて行き来している。21年には、ベラルーシからヒグマが渡ってきたとの報告もあった。
報道によると、ポーランド政府はビャウォヴィエジャをはじめとする国境地帯の森林の伐採を拡大する可能性があるという。野生動物への影響のほか、研究者らは、騒音と光害についても懸念している。また建設工事によって、成長の早い雑草種が持ち込まれる可能性もあると、ヤロシェビチ氏は言う。