日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/2/25

この研究結果は、米ジョージア大学の農業気候学者パム・ノックス氏が、桃の栽培で有名なジョージア州で見てきたことと一致している。ノックス氏によると、同州の農家は今、徐々に温暖化する冬の気候に適した新しい作物の栽培を試しているという。

「米国南東部の農家は、温暖化した気候を利用して、オリーブや温州みかんなどの新しい作物の栽培を試しています」と氏はメールで説明してくれた。

未来の気候に合わせた食料生産

今回の研究の結果は、50年の世界の食料供給にとってどのような意味があるのだろうか?

ホフマン氏は、気候変動が将来の食料安全保障にどのような影響を及ぼすかについては、さらなる研究が必要だと言う。例えば、気候変動によって害虫の個体数や種類は増えるだろう。その結果、作物の生産量は減少すると考えられるが、害虫を捕食する動物の数も増えたらどうなるだろう? 栽培面積が拡大する地域もあれば縮小する地域もあるため、個別の食品の運命を予想することは困難だ。

米コーネル大学気候スマートソリューションズ研究所の所長を務めたホフマン氏は、特定の作物の収穫量が減少すれば、地域に壊滅的な影響を及ぼすおそれがあると指摘する。「町にある巨大工場が移転してしまうのと同じです」

コミュニティーがこの変化を乗り越えるには、食料生産者はさまざまな方法で気候変動に適応する必要があると、今回の研究は指摘している。例えば、地面を覆って土壌を健康に保つ被覆作物の利用や、高温に耐えられるコーヒーノキといった気候変動に強い品種の育成などだ。

とはいえ、品種改良には限界がある。「育種は完成までに何年もかかるうえ、気候変動のスピードに育種家がついていけるとは限りません」と、米カリフォルニア大学デービス校の植物育種センター長であるチャールズ・ブラマー氏は指摘する。今よりも強烈な熱波が、より頻繁に起こるようになれば、耐暑性が非常に高い植物ですら生産できなくなるかもしれない。

科学者が数十年後の農業の変化を予測することで、農家は今後の見通しを立てることができる。また、被覆作物の栽培による土壌の浸食防止や、必要があれば新しい作物を栽培することなど、より効率の良い栽培方法を農家に奨励するよう政策立案者に助言する上でも役立つ。

「このような(気候の)変化と、それが農業へ及ぼす影響をモデル化することは、食料と栄養の安全保障にとってきわめて重要です」とグリューター氏は言う。「私たちは主に換金作物のモデルを作っていますが、アボカドは栄養価の高さの点でも重要です」

(文 SARAH GIBBENS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年1月29日付]