博物館も展示見直し? ティラノサウルスに複数説勃発

2022/3/28
ナショナルジオグラフィック日本版

米イリノイ州シカゴのフィールド博物館に20年以上展示されているティラノサウルス「スー」の骨格。新たな研究で、スーは実はティラノサウルス・レックスではなく、「ティラノサウルス・インペラトル」という別の種である可能性が指摘された(PHOTOGRAPH BY MARK WIDHALM, FIELD MUSEUM LIBRARY VIA GETTY)

6600万年以上前に現在の北米大陸西部にあたる大地を支配していた恐ろしい肉食恐竜ティラノサウルス・レックスは、実は3種に分けられるとする論文が発表された。

2022年3月1日付で学術誌「Evolutionary Biology」に掲載された論文によると、ティラノサウルスとされている化石は3つの体形に分類でき、それぞれが3つの異なる種を表しているという。そこで研究チームは、ティラノサウルス・レックスという種に加え(ラテン語でティラノサウルスは「暴君トカゲ」、レックスは「王」の意味)、残りの2種をティラノサウルス・レジーナとティラノサウルス・インペラトル(それぞれ「女王」と「皇帝」という意味)と名付けることを提案した。

「これまで、北米で発見されたティラノサウルスの標本は、全てティラノサウルス・レックスという1種に分類されてきました。けれど、誰もそれが本当に正しいのかどうか確かめた人がいないんです」と、研究チームのリーダーを務めたグレゴリー・ポール氏は言う。氏は無所属の研究者で、古生物画家でもある。

もしこの結論が正しいなら、世界中の博物館に展示されているティラノサウルス・レックスの化石は、再分類が必要になるだろう。ティラノサウルスは科や属などのグループの名称でもあるが、その名がつけられた種はこれまでTレックスことティラノサウルス・レックスのみだった。

しかし、ティラノサウルスの世界的権威も含め、この論文に懐疑的な意見を持つ科学者は少なくない。米ウィスコンシン州ケノーシャにあるカーセッジ大学の古生物学者トーマス・カー氏は「雲の形に無理やり意味を見つけようとするようなもので、何の正当性も見いだせません」と話す。

ポール氏のチームは、これまでに発見されているティラノサウルス・レックスの化石は他の大型捕食恐竜のものよりも変化に富んでいると主張する。そして、骨格の違いや、ノミのような形状をした歯の有無によって、これらを3つの特徴的なグループに分けられるとしている。

だが、それらの違いは様々な要因によるもので、いずれも新しい種名をつけるほどではないという見方もある。恐竜は、成長するにつれて体形(プロポーション)が大きく変わる。人間もそれぞれ体格に個人差があるように、ティラノサウルス・レックスが個体によってわずかに異なる成長を見せることもあるだろう。また、すんでいた環境の生態系や手に入る食べ物の違いによって体形が変わる場合もある。

以前から続いてきた議論

ティラノサウルス・レックスを複数の種に分けるべきかという議論は、数十年前からある。ティラノサウルスは100万年以上にわたり、現在のカナダ西部から米ニューメキシコ州に及ぶ広い範囲に分布していたため、時の経過とともに集団が分散し、それぞれの場所で別の種を形成した可能性はある。

一つの種の解剖学的特徴が長い時間をかけて明らかに変化した場合、その生物が初期と後期で別々の種に分類される例はある。

例えば、ティラノサウルスの化石が発見された北米のヘルクリーク累層からは、トリケラトプスの化石も多数発見されているが、下の方の古い層からはトリケラトプス・ホリドゥス、上の方の若い層からはトリケラトプス・プロルススという種が見つかっている。同じ地層で発見された他の恐竜に関しても、同様の進化があったのではないかとみる専門家もいる。

ティラノサウルスの化石は個体差が大きく、特に足の上部の骨である大腿骨の大きさは、個体によって様々だ。ある骨格はがっしりとした大腿骨を持ち、別の骨格はほっそりとした「きゃしゃな」形をしている。また、下あごにノミのような門歯を複数持った個体もあれば、全く持たない個体もある。

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今回の研究に対する批判