日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/25

岩から突き出した物体は翼竜のあごだった

翼竜は、空を飛ぶように進化した最初の脊椎動物で、中生代の空を支配していた。新たに発見されたジャークは、優れた視力と獲物を捕まえる歯、そして当時としては最大級の翼をもち、古生物学上の重要な位置を占めることになった。

だが、実はこの貴重な化石も、一時はあやうく失われるところだった。

ジャークが石灰岩から見つかったのは、17年5月、ナショナル ジオグラフィック協会が支援し、ブルサット氏が主導する調査のさなかだった。

5月23日の朝、調査チームのアメリア・ペニー氏が、スカイ島の北岸を調査している時に、岩から黒ずんだ物体が露出しているのに気づいた。数週間前なら、この物体を目にする機会はなかっただろう。少し前の悪天候で、化石を覆っていた大きな石が動いたのだ。

ペニー氏が見つけた物体の写真を見たブルサット氏は、それが翼竜のあごの一部と気づいた。岩から突き出した一部分だけを見ても、その翼竜が大型で保存状態が良いことは明らかだった。

一般に、翼竜の化石の状態は良くない。翼竜の骨は、内部に小さな穴がたくさんあり、その軽さは飛行には適しているものの、化石化の過程で骨が崩れやすい。また、翼竜の化石は幼い個体が多く、完全に成長した翼竜の化石はまれで、しかも断片化している。

チームは、この化石を発掘することにしたものの、現場には荒波が打ち寄せるうえ、潮の満ち引きによって、浸水と露出が繰り返されていた。ブルサット氏は、地元の人々に協力してもらい、化石の岩板を岩から切り出し始めた。ところがまもなく、化石はあごや頭部だけではないことがわかった。翼竜のほぼ全身の化石だったのだ。

「満潮との競争でした」と、ブルサット氏は当時を振り返る。しかし午後4時には、化石の岩板が残ったままの岩が浸水し始めた。苦肉の策として、もろい化石を保護するために硬化剤で覆った。あとは、化石が水中で無事であることを祈るしかなかった。幸いなことに作戦は成功し、翌日の晩には、ついに180キロの岩板を荷車に載せて運び出すことができた。

「いままでの調査における最大の発見でした。そして、こんなに苦戦したのも初めてでした」とブルサット氏は言う。

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太古の空を飛び交った動物たち