広告を音声コンテンツで リスナーに合わせ最適配信
ラジオ&音声メディア黄金時代(7)
今後さらに拡大が予測される日本の音声市場で、音声広告事業を手掛けるのがオトナルだ。同社はもともとウェブメディア事業を展開していたが、17年に国内でスマートスピーカーが登場すると、音声コンテンツを中心に事業転換。その後、音声コンテンツ全体の広告事業を手掛けるように。現在は企業の音声広告を制作するほか、ラジオ局、出版社などと共同でコンテンツ制作にも関わる。
オトナル代表取締役の八木太亮氏によれば、音声広告が得意とするジャンルは、無形商材や生活消費財だという。「例えば、アパレルや旅行などのような視覚に訴えるものは動画広告のほうが向いていますが、金融、学校、保険、サービス業など、メッセージだけで訴求するものは、音声広告との相性が良いです。また、飲料や洗剤などの日常的に店頭で購入する商材も購買決定時にブランディングが影響するので、音声広告に向いていますね。最近は消費材の広告が特に増えています」(八木氏、以下同)。
「モーメント」を切り取る
現在、音声広告を配信しているプラットフォームで大きなものは「Spotify」と「radiko」の2つ。Spotifyでは無料プランの楽曲再生の間の広告として、radikoでは地上波放送のうち番宣などを広告枠として差し替えて配信している。
音声広告では、従来のラジオ広告と比べてリスナーの属性に応じて最適な広告を出すターゲティング広告の進化がめざましい。性別や年齢といった情報だけでなく、「今、何をしているか」などに合わせて広告を打ち出せるのが強みだ。「ターゲティング広告は"モーメント"を切り取れる。例えば、Spotifyでは就寝前の再生が多いプレイリストに対して、枕や安眠アプリの音声広告を出すことが可能ですし、10代だけに向けて時間帯を絞り、『おはよう。今日も頑張ってね』、部活帰りの時間帯には『お疲れ様』というメッセージ内容の広告を流すことも可能です」。さらに、スマートフォンの位置情報データから、「パーキングエリアにいることが多いから、自動車関連の広告を流す」といったこともできるという。
広告効果をさらに高めるため、昨年8月には広告主が配信状況をリアルタイムに確認・分析できるダッシュボード「Otonal Ad Report」の提供を開始した。「分析ツールがあることで、広告を複数パターン制作した時の効果比較や、より効果的な配信時間などが分かりやすくなります」。音声広告は動画広告よりも低コストで制作できるため、複数パターンを流して、効果の高いものに絞っていくABテスト形式を行うことが多い。たくさん作って試せるのも音声広告の利点だ。
では、広告の観点から見た時にどんなコンテンツが求められるのだろうか。八木氏は、「重要なのはターゲットが明確であること」と話す。リスナー層が想定しやすいほど、ターゲットに合った広告を配信できるためだ。その上で、「BtoB向けの番組、女性向けの番組はまだ多くない」という。
音声配信とともに拡大が見込まれる音声広告市場。八木氏は、「デジタル音声広告はアメリカでは新たな広告ジャンルとして定着しているが、日本ではこれから。音声コンテンツで収益化できる企業やクリエーターを増やしていきたい」と意気込む。
(ライター 小松香里)
[日経エンタテインメント! 2021年11月号の記事を再構成]
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