2021/12/24

少ない足跡から情報を絞り出す

分析の結果、サイトAの足跡はクマやチンパンジーのものではなく、初期人類のものに最も近いことがわかった。しかし、足跡の寸法はラエトリ遺跡のアファール猿人のものとは大きく異なり、第2の人類がこの地を歩き回っていた可能性を示唆していた。

過去数十年で様々な特徴をもった初期人類が発見されてきており、その全体像はますます複雑になってきている。今回の結果も例外ではない。

ムシバ氏は、アファール猿人についても、さらに多くのことがわかるかもしれないと話す。アファール猿人は多様な特徴をもっていて、複数の種がひとくくりにされている可能性がある。

この足跡の主が新種の初期人類、あるいはラエトリ遺跡の他の足跡の主とは違う動物であるという説について、「可能性としては非常にエキサイティング」だが、足跡だけから判断するのは難しいと、南カリフォルニア大学の進化生物学者デビッド・ライクレン氏は言う。

ラエトリにアファール猿人以外の人類がいたとは納得していない科学者もいる。英ボーンマス大学の地質学者で、足跡化石を専門に研究しているマシュー・ベネット氏は、「気持ちとしては信じたいですが、頭はノーと言っています」と話す。氏が最も懸念しているのは、サイトAで発見されている足跡化石の少なさだ。5つの足跡のうち、足の大部分が記録されているものは2つしかない。

21年7月16日付けで学術誌「Palaeontology」に発表されたベネット氏らの論文によると、1個体の足跡のバリエーションを正しく把握するためには最低でも10~20個の足跡を分析する必要があり、より多くの個体について結論を導き出すためには、さらに多くの足跡が必要だという。

今回の個体の奇妙な交差歩行を理解するためには、より多くの足跡が必要だ。マクナット氏は、凹凸や滑りやすい場所のせいでバランスの悪い歩き方になりうることは認めるが、交差歩行はこの個体、あるいはこの種全体の歩き方の特徴である可能性もあると主張する。

サンプル数が少ないことは、古生物学の世界では珍しくない。「この時代の足跡の研究では当たり前のことです」とライクレン氏は言う。「研究できるサンプル数が少ないので、少数のサンプルからできるだけ多くの情報を絞り出すのです」

ベネット氏は、ラエトリの足跡から絞り出せる情報はまだあると考えている。研究チームは、足跡の幅や長さなどの個々の測定値を比較したが、単一の測定値や比では、足跡の複雑さを完全に把握することはできないとベネット氏は指摘する。そのため、グループ内のすべての足跡の3次元形状を用いて平均的な足跡を作成し、それを用いて足跡のばらつきを「画素ごと、要素ごと」に調べている科学者が多いという。

ベネット氏はまた、ラエトリのアファール猿人の足跡については、自分や他の研究者が作った平均的な足跡のデータがあるので、サイトAの足跡との比較は簡単にできるだろうと話す。

マクナット氏のチームは、サイトAについて多くの計画を用意している。地中レーダーを使って、火山灰の中に埋もれた足跡を非破壊的に探す計画もその一つだ。ムシバ氏は、「足跡はまだまだあると確信しています」と楽観的だ。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年12月3日付]