乗馬のベテランがスタントマンに

西部劇の制作者たちがアルメリアに着目したのは1960年代。当時、この地方はスペインで最も貧しく、高い失業率と人口流出に悩まされていた。そのため、辺ぴな場所ではあるが、制作費用は非常に安く抑えられた。また、地域の人々は乗馬技術に長(た)けているので、米国とメキシコの国境が舞台となるマカロニ・ウエスタンのスタントマンやエキストラとしては、理想的だった。

「父が金鉱の重労働で得る1週間分の収入を、私は1日で稼いでいました」と、マヌエル・ヘルナンデス・モントーヤさん(61歳)は、西部劇にエキストラとして出演していた少年時代を振り返る。

スタントマンのラファエル・アパリチオ・ガルシアさんは、「フォート・ブラボー」で撮影された複数の西部劇で主役を演じたことがある(PHOTOGRAPH BY MATILDE GATTONI)
「オアシス・ミニハリウッド」で撃ち合いのシーンを演じるスタントマンたち(PHOTOGRAPH BY MATILDE GATTONI)

『夕陽のガンマン』が大成功を収めたので、タベルナスの近くに、新たに野外の西部劇セットが2つ建設された(「オアシス・ミニハリウッド」と「ウエスタン・レオーネ」という名の映画村で、現在も撮影に使用されている。撮影作業がない時は、ほこりっぽい通りや19世紀風の町並みを観光客に公開しており、カウボーイ・ショーやツアー、乗馬体験などのアトラクションがある)。

当時、この地方は道路もほとんど舗装されていない状態だったが、映画産業が空港や高級ホテルの建設を促した。わずか数年で、アルメリアは、ひなびた田舎町から「ヨーロッパのハリウッド」に変身を遂げ、女優のクラウディア・カルディナーレやビートルズ、チャールズ・ブロンソンたちが、撮影の合間に「グラン・ホテル」のプールサイドでくつろぐ姿も見られた。

しかし、過剰な作品数、品質の低下、人々の関心が薄れたことが原因で、マカロニ・ウエスタンは1970年代末に衰退してしまった。この衰退はアルメリアの映画産業にも打撃となり、数千人が職を失い、西部劇のセットは荒れ果てた。所有者が放棄したセットは、生計を立てるために観光客向けのショーを行うスタントマン数人によってほそぼそと維持された。モリーナさんが「フォート・ブラボー」を6000ドルで購入した時には、敷地内の銀行も店舗も酒場も廃虚となっており、再建しなければならなかった。

映画産業の復興

1980年代に『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(原題:Indiana Jones and the Last Crusade)や『コナン・ザ・グレート』(原題: Conan the Barbarian)など、複数の大作が制作され、アルメリアの映画産業は持ち直した。西部劇は黄金期の輝きを取り戻してはいないが、地元の人々は今も西部劇との深い結びつきを大切にしている。「1950年代から今まで、西部劇はこの地方の運命をすっかり変えてくれました」と、プロデューサーのマルティネスさんは話している。

タベルナス砂漠の荒野を訪れて西部劇セットの廃虚を見学できるガイド付きツアーもある(PHOTOGRAPH BY MATILDE GATTONI)

3つの映画村だけでなく、毎年10月にタベルナスで開催されるアルメリア西部劇フェスティバルでも、旅行者はアルメリアの映画産業に触れることができる。数千人のファンが集まるフェスティバルでは、映画を鑑賞したり、ガンマンに扮装(ふんそう)したり、西部劇に登場する料理を試食したりできる。

また、アルメリアでは、実際に映画が撮影された遠くの峡谷や山を巡り、砂漠の中に放棄されたセットを訪れるツアーも実施されている。クリント・イーストウッドのポンチョのレプリカを着て、「3部作」の撮影場所で自撮り写真を撮るために、はるばる日本からやって来た旅行者もいたということだ。

観光客や映画関係者を引き付けているのは、冷ややかなまなざしの謎めいたカウボーイや荒涼とした風景だと考える人もいるだろう。だが、マルティネスさんは、もっと高い次元からとらえており、「西部劇は、国家や社会をゼロから作り上げるストーリーです」と言う。「西部劇は、人類の歴史そのものを描いているのです」

(文 MATTEO FAGOTTO、写真 MATILDE GATTONI、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年3月6日付]