スタントマンやカウボーイ役を務める29歳のリカルド・クルス・フェルナンデスさんは、「ずっと馬や米国西部が好きでした」と話す。近作では『ゲーム・オブ・スローンズ』やホアキン・フェニックス主演の西部劇『ゴールデン・リバー』(原題:The Sisters Brothers、2018年)にも出演している。フェルナンデスさんは、10年前にスタントマン課程を修了し、カウボーイ役として一歩を踏み出した。
撮影の合間には、「フォート・ブラボー」を訪れる観光客を前に、毎日、ショーに出演している。金塊を盗んで逃亡する銀行強盗を演じることもある。



マカロニ・ウエスタン発祥の地
フェルナンデスさんに西部劇へのあこがれが芽生えたのは少年時代、イタリアのセルジオ・レオーネ監督の「ドル箱3部作」を見た時だった。この3部作、すなわち『荒野の用心棒』(原題:For a Fistful of Dollars)、『夕陽のガンマン』(原題:For a Few Dollars More)、『続・夕陽のガンマン』は、1960年代にアルメリア県で撮影された。主演は、まだ若く知名度も低かったクリント・イーストウッド。ポンチョを着た「名無し」のカウボーイを演じた。
この3部作でレオーネ監督が用いた斬新な撮影方法と魅力的なサウンドトラックは、「マカロニ・ウエスタン(欧米ではスパゲティ・ウエスタン。主にヨーロッパで制作された西部劇を指す)」と呼ばれるジャンルの先駆けとなった。その後、マカロニ・ウエスタンは、1960年代から1970年代にかけて高い人気を誇った。
マカロニ・ウエスタンは、当初、米国の批評家から冷たくあしらわれたが、映画作品に失われかけていた現実的な視点を作品に取り入れたことで、目覚ましい成功を収めるようになった。主要な登場人物は、それまでの大作映画に登場していたような英雄的な白人の征服者ではなかった。それは善悪を超越した懸賞金ハンターであり、個人的な利益、強欲さ、復讐心(ふくしゅうしん)に駆られて行動した。戦いや暴力が見せ場となり、善人が勝利することはまれだった。

アルメリアはそれまでにも、名高い作品(『アラビアのロレンス』『クレオパトラ』)のロケ地として使用されていた。だが、この地方のすばらしい景観が世界から注目されるようになったのは、レオーネ監督とその後に相次いだヨーロッパ製西部劇のブームが発端だった。
それ以来、アルメリアは、大ヒット映画『パットン大戦車軍団』(原題:Patton)や『ターミネーター: ニュー・フェイト』(原題:Terminator: Dark Fate)、テレビドラマ『ドクター・フー』をはじめ、500本以上の様々な作品の舞台となってきた。「この地方の地形は、映画制作に最適なのです。海も砂漠も雪山も、すぐ近くにありますから」と、地元のプロデューサー、プラシド・マルティネスさんは言う。「テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニアなど、あらゆる自然環境を提供できます」