「と」の力が備わっている

この大河ドラマでは、渋沢栄一に多大なる影響を与えた人物の1人として、草彅剛さんが演じる第15代将軍の徳川慶喜が登場します。第1話の冒頭シーンは、渋沢栄一が仕官の意志や自身が抱えている思いを慶喜に伝える場面から始まりました。

当時のツイッターでは「渋沢栄一と徳川慶喜の物語になりそう」との声もあがっていましたが、まさに、栄一「と」慶喜の固い絆の物語でもあったように思います。

ここで、「と」を強調したのには、理由があります。実は、渋沢栄一のやしゃごにあたるコモンズ投信会長の渋沢健さんは、「渋沢栄一の原点は『と』の力にこそある」と主張されているのです。

渋沢さんには私が担当する金融・経済情報番組に何度かご出演いただきましたが、渋沢栄一の『論語と算盤(そろばん)』の思想のもとに、ある1つのメッセージを発信されています。「論語『と』算盤は、未来に進んでいる車の両輪であり、たとえ異分子であっても、『と』の力で合わせることの試行錯誤を繰り返せば、ある時、ある条件が整っていたら、新たなモノの創造、つまりクリエーションへとつながる可能性がある」というメッセージです。

たとえ異分子であっても融合させることで新たなクリエーションへとつながる「と」の力。実は、この「と」の力は、渋沢栄一を演じた吉沢さんにも備わっている力であるように感じます。

吉沢さんは、「草彅さんとの芝居は、お互いから出る『生のもの』をその場でキャッチボールするような感じ」とインタビューで答えています。尊敬する先輩俳優との共演のなかで、相手とキャッチボールする感覚で相手の力も借りながら、ひとつひとつのパフォーマンスを成立させていく……。吉沢さんはそうした「と」の力を大切にしながら渋沢栄一を演じ続けてきたのです。

20代後半の吉沢さんは、仕事人として吸収力抜群の時期です。役者としてベテランの域に入っている草彅さんから刺激を受け、相手の持つ力と自身の持つ力を融合させ、より高みを目指したい――。そうした姿勢が、あの渋沢栄一とはまさしくこういう人物だったと思わせるような迫真の演技につながっているのではないでしょうか。

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融合と調和の力を発揮