日経ナショナル ジオグラフィック社

フェリドゥーのような島の暮らしから高層ビルが立ち並ぶ人工島への移住は、生活の劇的な変化を意味する。気候変動の影響は世界に及ぶことを考えると、これはすべての人への警告と受け止めるべきだろう。自分たちのいる場所を失うよりも前に、自分たちが何者であるかを見失ってしまうかもしれないという警告だ。そして、モルディブの人々が変わりゆく地球をどうにかして生き残ったとしたら、この先何が救われ、何が失われるのかという疑問が浮かび上がるだろう。

有史以前の火山から生まれた環礁

恐竜が絶滅する100万年前、インドプレートが北へ移動する際にできた地殻の裂け目からマグマが噴出して火山の尾根が生まれた。この尾根が、長い時間をかけて浸食され、サンゴ礁に覆われたモルディブの環礁が形成された。

マレ島、フルレ島、フルマレ島をつなぐシナマレ橋。中国政府の支援を受けて建設され、2018年に開通した(PHOTOGRAPH BY MARCO ZORZANELLO)

モルディブの島々は、インド洋のおよそ9万平方キロメートルの海域に散らばっているが、その陸地面積はわずか300平方キロメートルしかない。どれも小さな島ばかりだ。

モルディブでは、陸と海は一体であり、その両方が人々のアイデンティティーを形成している。「私が陸と言うとき、そこには海も含まれています。海を陸から切り離すことはできません。すべて含んだものが『島』なのです。そこが、私たちが住んでいるところですから」と、サイード氏は言う。99%以上が海で占められている国に住む以上、海を愛さないわけにはいかない。

モルディブではもともと、島自体がいつまでもあるとは限らないというはかなさを持っている。生きたサンゴの上に形成された砂州は、海流によって拡大したり縮小したり、盛り上がったり沈んだりする(モルディブで、すでに消滅してしまった島は数多い)。

首都が置かれているマレ島を含むほとんどの島は、海抜わずか1メートル強で、今世紀末には水没してしまうだろうと、気候科学者たちは予測している。ちなみに、人工島であるフルマレは、海抜が約2メートルある。

フルマレ島の造成計画は、1997年に始まった。隣接する2つの浅い礁湖へ大量の砂を投入して押し固め、428ヘクタールの新しい島が作られた。

「全人口の3分の2が住むことができます」と、フルマレ開発会社のイスマイル・シャン・ラシード氏は言う。

島には、公園やアパート、イスラム教のモスク、商店、スケートパークや遊歩道、学校、道路が作られ、整然としたどこかの海辺の町のような印象を受ける。18年には長さ1.4キロメートルの橋も建設され、マレ島と陸路でつながれた。

ビーチに近い浅瀬のサンゴ礁は、旅行者の遊泳場として開発されている(PHOTOGRAPH BY MARCO ZORZANELLO)
イタリア、ミラノ・ビコッカ大学の海洋生物学者インガ・デナート氏は、海水温の上昇によって危機にさらされているサンゴ礁を回復させるため、サンゴの繁殖に携わっている(PHOTOGRAPH BY MARCO ZORZANELLO)
モルディブでは、海水温の上昇、浚渫(しゅんせつ)工事、建設などで多くのサンゴが破壊され、いたるところにサンゴの死骸が散乱している(PHOTOGRAPH BY MARCO ZORZANELLO)
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