民族大移動が起こる「再会と希望の祝祭」
世界各地で祝われる旧正月(太陰暦の正月)には、例年、人の移動が地球最大規模で発生する。欧米では「チャイニーズ・ニュー・イヤー(中国節)」と呼ばれることもあるが、これは中国だけの祝日ではない。今年(2022年)は2月1日火曜日にあたる旧正月は、家族が再会し、おなかいっぱい食べ、にぎやかにお祝いをする伝統の行事だ。
春節の起源
現代の中国では、実際には、世界の大半の国々と同じくグレゴリオ暦が使われている。しかし祝日に関しては、およそ4000年前から使用されていたとされる、伝統的な太陰暦に従っている。1912年、建国されたばかりの中華民国がグレゴリオ暦を正式に採用したとき、指導者たちは太陰暦の正月を「春節」として、今日の中国で知られているような祝賀を行うようになった。
太陰暦は月の満ち欠けの状態によって決まるため、正月の日付は年によって異なる。旧正月を祝う国は、中国のほか、韓国やベトナム、シンガポール、インドネシア、マレーシア、その他中国人の多い地域でも旧正月を祝う。お祝いのやり方は国によってさまざまではあるものの、共通しているのは、これが再会と希望の祝祭であることだ。
旧正月のお祝い
中国では春節前後の期間に、いくつもの小さなお祭りや儀式がある。旧正月の前後7日間の国の祝日となっており、大みそかには、家族や親戚が集まって大勢で夕食をとりながらお祝いする。これは一年で最も大切な食事と考えられており、親戚の中でいちばんの高齢者の家で行われる。
現代的になってゆく部分はあれど、数千年前からの伝統は、中国やほかの国々で今も大切に受け継がれている。中国では、爆竹を鳴らす習慣があるが、これは恐ろしい怪物ニアンを追い払うためだと言われている(ただし、近年では大気汚染対策によってこの習慣は衰退しつつあり、花火産業は大きな打撃を受けている)。
人々は赤い服や装飾で繁栄を願い、幸運のお金を入れた紅包と呼ばれる赤い封筒を交換する。韓国の旧正月(ソルラル)には、餅入りのスープを作り、先祖を敬う儀式を行う。ベトナムの旧正月(テト)のお祝いには、たくさんの花が飾られる。
11億8000万人が移動する見込み
旧正月からは、人の移動にまつわる独特の現象も生まれている。「春運」と呼ばれるその現象は、中国において、家族の再会と旧正月のお祝いのために大勢の人々が移動することを指す。数年前には、春節前後の40日間に移動する人は数十億人にのぼった。世界最大の民族大移動とも呼ばれる春運の時期には、ただでさえ混雑している道路、鉄道、空港がさらに混み合うのが恒例となっている。
しかし2022年は、パンデミック(世界的大流行)の影響により、この伝統は21年に続いて厳しい状況に直面している。中国政府は、ゼロコロナ政策の一環として、厳しいロックダウン(都市封鎖)を実施し、厳重な検査と隔離政策によって人の移動を抑制している。
それでも22年の春節には、11億8000万人が移動すると見られている。この数は19年の半分以下だが、中国の国営メディアによると、21年よりも36%の増加だという。この数字からは、春節を幸運と愛の祝日として、今も変わらず大切にしている人がたくさんいることが伺われる。
(文 ERIN BLAKEMORE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年1月31日付]
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