「あずき色」と「あんこ色」の違い
商品開発はテーマ設定から始める。中高生を中心としたターゲットが「共有したい」ことを、調査やヒアリング、SNS(交流サイト)など、あらゆる方法で探し出すという。例えば、20年11月に発売した初のユニボール ワンの限定色の「MORNING TIME STUDY」「DAY TIME STUDY」「NIGHT TIME STUDY」というテーマは、「#朝勉」「#朝勉強」「#夜勉強」など、勉強している時間帯のハッシュタグを付けた投稿がSNSで流行していることから考案した。「朝、勉強していることをSNSで発信するのは、共有したいと思っているからこそ。その人たちに響くように、朝・昼・晩の3つの時間帯と勉強シーンを重ね合わせたテーマにした」(古場氏)
色はテーマを基に、誰もが1度は見たことがある「情景」をイメージしながら考案している。例えば、「MORNING TIME STUDY」の場合、「朝でもくっきり見える色」といったようなユニボール ワンの特徴や機能と絡めるのではなく、「雨上がりの朝のみずみずしい木々」「窓から見える朝焼け」など、情緒的に考えていく。「感覚的なことではあるが、色もネーミングも共感してもらえる“キュン”となるポイントを大事にしている」(増田氏)

色を決める基準は、単体はもちろん、3色セットやテーマ全体でも、かわいらしく見えるかどうか。その世界観をネーミングとパッケージで伝えていくという。
21年2月に販売した「uni-ball one 春・夏カラー3色セット」の「あんこ色」は、検討の段階で「あずき色でもいいのではないか」という声があったそうだ。しかし「あずき色ではキュンとしない」と考え、「あんこ色」に決まったという。21年11月発売の「uni-ball one 秋・冬カラー3色セット」の「ねこじゃらし色」や「焼きりんご色」は、SNSでも「ネーミングがかわいい」と評判は上々だ。

これまで三菱鉛筆のセット売りといえば、定番の色をビニール製のクリアケースに入れて販売するのが一般的だった。だが、ユニボール ワンの限定色では、ペンのクリップ部分のみ見せる窓付きの紙製のパッケージを開発した。
「軸を全部見せないで売ることは、これまでにないチャレンジだった。不安もあったが、限定色のテーマや色の世界観は軸よりも、パッケージに配したイラストやグラフィックから感じとってもらえると考えた。クリアケースではできない見せ方を体現できたと思う」(増田氏)
「ときめき」という感覚を重視した商品開発は、近年、機能的価値に加え、情緒的価値を伝えていくことにも注力している三菱鉛筆らしい取り組みの1つといえるだろう。
(ライター 西山薫、写真提供 三菱鉛筆)
[日経クロストレンド 2021年12月1日の記事を再構成]