日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/22
多くの信者にとって、ルルドはいつも希望の地だった。パンデミックによって、その思いはさらに確かなものになった(PHOTOGRAPH BY SEVERINE SAJOUS)

行政のリーダーたちも、旅行者の多様化に対応する必要性を理解している。聖女ベルナデッタの遠縁である新しい町長のティエリー・ラビ氏は、新型コロナがルルドにチャンスをもたらしたと考えており、「巨大なリセットボタンを押すようなものです」と話す。

現在、行政による「アブニール・ルルド(ルルドの将来)」計画が、始動したばかりだ。まだ初期段階だが、10年をかけてルルドを近代化して再構築し、新たな旅行者を継続的に呼びこむことを目指している。この計画の実現のため、フランス政府から1億4000万ユーロ(約183億円)という巨額な援助金が支出されることになっている。

オートリック家の人々が、父、アルノー氏のために献灯する。アルノー氏は白血病を患い、骨髄移植を待っている(PHOTOGRAPH BY SEVERINE SAJOUS)

2月には、近隣の町との間で、電動自転車・乗用車のシェアリングプログラムが始まった。手頃で環境に優しい交通手段である夜行列車は、2016年に廃止されていたが、12月から運行が再開されることになった。大規模な緑化プログラムも開始されている。

「私は、ルルドを『眠れる美女』と呼んでいます」と、ラビ氏は言う。「彼女を目覚めさせるためには、考え、行動し、あらゆる手を尽くさなければなりません」

洞窟の聖水で顔を洗う男性(PHOTOGRAPH BY SEVERINE SAJOUS)

パンデミックがもたらした大いなる眠りは、祈りと希望の地としての伝統ある役割を守るルルドに、改革も必要であることを教えてくれた。聖女ベルナデッタの遠縁にあたる写真家のセブリーヌ・サジュー氏は、生まれ育ったふるさとを新たな視点から見つめている。

この記事の写真を撮影した彼女は「私は信仰と無縁の家庭で育ちましたが、ルルドを見つめなおすことで、自分の精神性を問い直しました」と話す。「パンデミックの時期、旅行者の姿が消えて静かになったルルドから本来の意味とメッセージが浮かび上がり、心が満たされました」

洞窟の近くには、この「サン・ブノワ」のような土産物店が並び、ろうそく、ロザリオ、聖水が入った聖母マリア像などを販売している。今年は、こうした商店の破産を防ぐため、行政側が固定費を支払った(PHOTOGRAPH BY SEVERINE SAJOUS)
「AFCチキン」は、ブールバール・ド・ラ・グロット(洞窟大通り)でパンデミック中も営業を続けた唯一のレストラン。店主はスリランカ出身で、5年前からルルドに住んでいる(PHOTOGRAPH BY SEVERINE SAJOUS)
2021年4月17日、復活祭前の聖週間だが、聖域にあるロザリオ聖堂前の遊歩道は閑散としていた(PHOTOGRAPH BY SEVERINE SAJOUS)

(文 MARY WINSTON NICKLIN、写真 SEVERINE SAJOUS、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年11月16日付]