4K8Kテレビの普及加速 パリ五輪までに目標2500万台
大河原克行のデータで見るファクト
高精細映像の4K8K衛星放送を視聴できる機器の出荷台数がついに1000万台を突破した。
NHKや民放などでつくる放送サービス高度化推進協会(A-PAB)によると、2021年8月31日時点での4K8K衛星放送の視聴可能台数は1002万6000台となり、「東京オリンピック・パラリンピックの開催期間中に全世帯の18%にあたる1000万台」という同協会の「公約」を達成した。
A-PABの木村政孝理事は、「18年12月に4K8K衛星放送がスタートしてから、2年9カ月(33カ月)、約1000日で1000万台に到達した。逆算すると、毎日1万台が日本の家庭に設置されたことになる。1台あたり10万円以上する製品がこれだけ広がった。その実績を評価してもらいたい」と述べる。
20年春には、新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪・パラリンピックの開催が1年延期となり、需要の先送りが懸念された。だが20年6月以降、政府による国民1人10万円の特別定額給付金の給付をきっかけに、テレビ販売が増加。それが21年7月前半まで続いた。
「大型スポーツイベントの開催に伴うテレビの需要は、開催2~3カ月前に集中的に生まれていたのがこれまでのパターン。だが、今回は、約1年間にわたり、前年同月比3~4割増で推移した」(A-PABの木村理事)という。
東京五輪・パラリンピックが、無観客開催になったことも、テレビ販売には追い風となったようだ。ちなみに、東京五輪の4K8Kの放送時間は、BS4Kの民放5局合計で85時間58分、NHKではBS4Kが約220時間、BS8Kでは約210時間。東京パラリンピックでは、NHKがBS4KおよびBS8Kで、それぞれ約90時間のサイマル放送(テレビで放送中の映像をインターネットで同時配信すること)を行ったという。
視聴者からは、「競技会場の特等席で見ているような臨場感があった」「選手の表情や汗までくっきり見え、空気感が感じられた」という声が上がったという。各競技において高画質ならではの臨場感が伝わったようだ。
なかには、2Kと4Kを切り替えながら視聴していた人もいたようで、「画質の違いが一目瞭然だった」、「赤と青の表現力の違いに驚いた」という声もA-PABには寄せられた。
次の目標は2500万台
A-PABは、新たな目標を打ち出している。24年のパリ五輪・パラリンピック開催時に、累計出荷台数2500万台(世帯普及率は約45%)を達成するというものだ。
目標達成には次の35カ月間で1500万台の出荷が必要で、月平均44万台となる。これまでの月平均は31万台なので、4割増が必要となり、達成は簡単ではない。
だが、A-PABは、テレビ需要の伸びを加速する「ブースター」がいくつかあると見ている。
一つ目は、「買い替え需要」。現在、テレビの買い替えサイクルは9.7年で、10年を超えたテレビは買い替えの候補になる。11年の地上デジタル放送への完全移行を前に購入したテレビは、これから本格的な買い替え時を迎える。08年から11年までの4年間で約6800万台のテレビが出荷されており、これがまさに買い替えのタイミングに入ってくる。買い替えの際には、せっかくなら4K8K衛星放送に対応したいといった声が多い。
二つ目は、累計1000万台に達したことで、4K8K衛星放送のメディアとしての価値が高まり、好循環が生まれる土壌が整ったという点だ。1000万台の普及規模になると、民放各社はCMを獲得しやすくなり、「ピュア4K」と呼ばれる4K撮影用の機材で制作され、4Kで放映される番組も増える。そうなれば高画質のメリットをより訴求しやすくなり、4Kテレビの視聴者や販売台数が増えるという好循環が生まれるきっかけになる。A-PABは「1000万台の視聴可能環境が整ったことで、放送局は好循環のスタートラインに立てた」とする。
現在、民放各局におけるピュア4Kコンテンツの比率は20~30%に達している。特番が多い年末はそれが増加し、今年は50%に達しそうだ。年間を通じて、ピュア4K比率が50%を超えるようになると、4Kの魅力がより多くの人に伝わりやすくなり、4K8K衛星放送を視聴できるテレビの販売にも弾みがつきそうだ。
流行を分析する「イノベーター理論」でいえば、新商品は普及率が16%を超えた時点で一気に定着する。4K8K衛星放送が視聴できるテレビの世帯普及率は18%で、その壁を越えた。4K8K衛星放送が視聴できるテレビは現在、14社から発売されており、品ぞろえも充実している。もちろん若者のテレビ離れなどの懸念材料もあるが、21年12月1日に放送開始から4年目を迎える4K8K衛星放送は、新たなフェーズに入ったことは間違いない。
ジャーナリスト。30年以上にわたって、IT・家電、エレクトロニクス業界を取材。ウェブ媒体やビジネス誌などで数多くの連載を持つほか、電機業界に関する著書も多数ある。
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