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タイ王室が愛した磁器が復活 村の失業者が一念発起

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ナショナルジオグラフィック日本版

緻密な絵柄が描きこまれた磁器「ベンジャロン焼」は、かつてタイの上流階級だけが手にできる逸品だった。18世紀から19世紀にかけて、裕福な女性たちはベンジャロンの箱に宝石をしまい、王族たちはベンジャロンの繊細な器で食事をし、首都の王宮にはベンジャロンの大きな花瓶が飾られていた。

20世紀初頭には、ベンジャロン焼の欠片を使ったモザイクが、ワット・アルンをはじめとするバンコクの仏教寺院を飾るようになった。しかし、生産量が増え、一般の人にも手が届くようになったのもつかの間、ベンジャロン焼は廃れ、生産は途絶えてしまった。

今日、ベンジャロン焼があるのは、1980年代にその伝統を復活させた村があったからだ。バンコクの西約30キロに位置するドンカイディー村は、バンコク大学の東南アジア陶磁器博物館のアシスタント・キュレーターであるアタシット・スッカム氏が、「本物のベンジャロン焼を入手することができる唯一の場所」と表現するまでになった。

村には約100人の職人からなるコミュニティーがある。新型コロナとの闘いが続く中、人々はその希少な技術を再び世界に見てもらいたいと考えている。2021年11月1日以降、ワクチンを接種した旅行者は検疫隔離なしでタイを訪れることができる。ドンカイディーの職人から直接ベンジャロン焼を購入したり、バンコクの王宮で精緻な装飾品を鑑賞したりすることができるのだ。

ルーツは中国に

ドンカイディー村が受け継いでいるのは、中国とタイの密接な関係から生まれた伝統だとスッカム氏は語る。

「タイのアユタヤ王朝(1350~1767年)末期に輸入された磁器がベンジャロン焼の始まりです」と同氏。「初期のベンジャロン焼は、タイの王室が中国に注文したものでした。中国南部で作られ、中国のデザインが施されていました」

描かれているのは中国の伝統的なモチーフである花や魚、山など。タイ独自の影響は、その配色に見られる。タイ王室は、中国から輸入する磁器を全て、白・黒・緑・赤・黄の5色で装飾するように統一させたのだ(「ベンジャ」は「5」、「ロン」は「色」を意味する)。

国王ラーマ5世の治世(1868~1910年)には、絵付けのない磁器が輸入され、タイ国内で独自のデザインが施されるようになった。20世紀初頭には、国王の命により、ベンジャロン焼は上流階級だけのものではなくなった。やがて、工房がタイ各地に誕生し、広く普及していった。

しかし、1910年にラーマ5世が亡くなると、ベンジャロン焼の勢いも衰えたとスッカム氏は言う。20年後には、生産は完全に途絶えてしまった。しかし、その理由は謎に包まれている。「ベンジャロン焼が消えていったことや、その理由を記した記録はありません」とスッカム氏は話す。

9つの工程

ベンジャロン焼が復活したのは、1982年にバンコク近郊の陶磁器工場が閉鎖したことがきっかけだった。ウライ・タンゲウム氏は、サムットサーコーン県にあったこの工場が閉鎖された際に、失業した数十人のタイ人職人の1人だ。

タンゲウム氏は、自分の不運を嘆くことなく、一念発起した。ベンジャロンのデザインを研究し、工場から仕入れた無地の磁器に絵付けをし始めた。この忘れられていた製品を評価してくれる人たちがいることがわかると、今度は窯を購入した。ゆっくりと時間をかけ、タンゲウム氏は、ベンジャロン焼の全ての工程をカバーする工房を、やはりサムットサーコーン県にあるドンカイディーに作り上げた。それから40年近くがたち、工房は何十人もの職人が技術や知識を共有する協同組合となっている。

村を訪れた観光客は、ベテラン職人の案内でドンカイディーを見学する。そして、ベンジャロン焼が9段階の工程をへて、最大4人の職人の手によって作られることを知る。材料はタイの3つの県から集められた土だ。これらを混ぜ合わせると、可塑性、熱吸収性、白色の仕上がりにおいて、完璧な調和が生まれるという。

製品は、ろくろで形を整えられた後、セ氏800度の電気窯で10時間焼かれる。冷めると釉薬(ゆうやく)がかけられ、さらに高温で10時間焼かれて、表面が輝きを放つようになる。

次の工程は、ベンジャロン焼のトレードマークである金彩だ。1リットルあたり約57万円するという金で絵付けが施されていく。20年以上の経験を持つベテラン職人のみが行う作業だという。

別の職人が金色の線の周りを色絵の具でなぞった後、監督者が全体をチェックする。最後に再び窯で焼いて完成だ。ベンジャロンのカップや皿の製作にかかる日数は3~4日。価格は1つ約3500円からだ。高さ約1.8メートル、価格は115万円もする大きな花瓶の場合は、制作に2週間かかる。

裕福な顧客の中には、オーダーメードのデザインを希望する人もいる。そうでない限り、描かれるのはベンジャロンの中でも最も一般的な柄だと、タンゲウム氏の娘であるニッパワン・タンゲウム氏は言う。たとえば、タイ全土の寺院にも描かれている「テパノム」。胸の前で手を合わせる仏がモチーフだ。

仏教的なモチーフの周囲には、タイの重要なシンボルがちりばめられている。力を象徴する龍に、情熱を象徴する炎。供養のための仏塔に、清らかさを表す蓮の花。ごく小さなベンジャロン焼にも、数多くのシンボルが描かれている。

不透明な未来

コロナ禍の前、ドンカイディーには週に数百人の観光客が訪れ、ワークショップや村のツアーに参加したり、ベンジャロン焼を購入したりしていたと話すのは、ベンジャロン焼を作り続けて34年、60歳のプラスパスリ・ポンマタ氏だ。「パンデミックの間、海外からの観光客はほとんどゼロで、タイ人の観光客が数人来ただけでした」と同氏は言う。「でも、私たちはあきらめませんでした。私たちはこの芸術を愛しています。パンデミックのことも忘れるような集中力をもらえるんです」。

陶磁器の専門家であるスッカム氏によると、大量生産された安価なベンジャロン焼がタイ中の店で売られているなか、ドンカイディーだけが本物の伝統的なベンジャロン焼を提供しているという。

この村はウェブサイトは作成しておらず、販売のほとんどは村で直接行われるか、富裕層のために購入を斡旋(あっせん)する美術商を介して行われるとポンマタ氏は言う。中には、金をふんだんに使った手の込んだ食器セットに約340万円を支払う人もいるという。

ベンジャロンの価格は、製作にかかる手間を反映している。緻密な模様を何時間も描き続けるには、冷静さと粘り強さが必要だ。職人として一人前になれるかどうかは、何よりもそうした資質にかかっている。

「村にはベンジャロンを学びに来る若者がたくさんいますが、ほとんどの人が長続きしません」とポンマタ氏。「技術はあっても、忍耐力がないのです。忍耐力がないと、ベンジャロン作りは、頭がおかしくなるような仕事です。でも、忍耐力があれば、とても心が落ち着く、まるで瞑想(めいそう)のような作業になります」

ベンジャロン職人の収入の低さもまた、この道に進むタイの若者が少ない理由だ。ポンマタ氏の娘のスパワンさんはそう語る。39歳の彼女は、ベンジャロンを作るのが大好きだと言う。ただし、それはあくまで余暇活動で、彼女自身は、より安定していて給与の高い美術教師になった。「若い人たちは、お金を稼ぎたい、将来性のある安定した仕事に就きたいと思っています。ベンジャロン職人は、安定した道ではないのです」

新世代の職人は少なく、ベンジャロン焼の将来は不透明だと村人たちは言う。40年前、ベンジャロン焼は遺物のようなものだった。ベンジャロン焼を冬眠からゆっくりと目覚めさせたドンカイディーの職人たちは今、それを再び眠らせることのないよう、奮闘している。

(文 RONAN O'CONNELL、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年1月2日付]

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