トンデモ設定の裏に緻密な脚本 韓国ドラマ人気の理由
ラブストーリーの新潮流 韓国ドラマ編(下)
『愛の不時着』や『梨泰院クラス』を筆頭に、韓国ドラマの人気が止まらない。かつては純愛ものを十八番としていた韓国ラブストーリーは今、様々な要素を組み込み、多様化している。前回の「韓国ドラマ、Netflixで大ヒット 日本で人気の訳は」に続き、トレンドを読み解いていく。
TREND 4:アラフォー俳優の活躍
『愛の不時着』の主演ヒョンビンは現在39歳。かつてラブコメと言えば、若手俳優の独壇場だったが、ここにきて、確かな演技力のあるアラフォー俳優たちの出演作が増えている。
韓国エンタテインメント・ナビゲーターの田代親世氏はその世代の注目俳優として、『夕食、一緒に食べませんか?』(2020年)のソン・スンホン(45歳)や映画『最も普通の恋愛』(19年)のキム・レウォン(40歳)、『愛の不時着』のソン・イェジン(39歳)、『2度目の二十歳』(15年)のチェ・ジウ(46歳)らの名前を挙げる。
「例えばソン・スンホンは、若い頃は隙がないハンサムで、面白みがないという意見もありましたが、歳を重ねた今では、硬軟こなせる脂の乗ったいい俳優になりました。酸いも甘いも噛み分けて成熟した魅力を伴ったこの世代が、魅力的なラブストーリーで主演を張って秀作を放っているのは、作品の傾向として新しいものでしょう」(田代氏、以下同)
TREND 5:奇想天外なストーリー設定
「北朝鮮にパラグライダーで不時着したら恋が芽生えた」など、奇想天外なラブストーリーにもかかわらず、作品を見ているとそのトンデモ設定が気にならなくなるのも、韓国作品の大きな強みだ。
「最近では、恋の相手が"人ならざるもの"という作品も増えましたね。『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(16年)で、コン・ユが演じているのは、いわゆる"鬼"です。ほかにも宇宙人や人魚、クローン人間、ロボット、神様……。さらには『気づいたら自分は漫画の登場人物だった』『朝鮮王朝の時代にタイムリープ』など、設定のユニークさは枚挙にいとまがありません」
トンデモ設定をリアルに展開できるのは、優秀な脚本家や演出家たちの力量によるところが大きい。
「緻密なキャラクター作りをし、世界観を丁寧にきちんと作り上げているのでしょうね。さらにシリアス、爆笑、胸キュンなどの異なる要素を作品全体だけでなく、各エピソードにも収めてくる力量はすごい。脚本の軸がしっかりあるからできることだと思います」
TREND 6:"事前制作"を巡る冒険
かつては、本番直前に台本が出来上がり、連日徹夜でキャストは点滴を打ちながら撮影、当日に編集して即放送という、放送事故ギリギリの制作が当たり前だった韓国ドラマ。しかし、16年の『太陽の末裔』以降、放送開始前に事前制作を採用する作品が増え、Netflixの作品では特にその傾向が見られる。
『賢い医師生活』
ソウル大学の医学部で出会った5人(チョ・ジョンソク、ユ・ヨンソク、 チョン・ギョンホ、チョン・ミド、キム・デミョン)の男女医師たちによる、素朴で温かく、"ジワる"ヒューマンドラマ。シーズン1では晴れて同じ病院で働くようになり、学生時代のバンド活動も再開させる。シーズン2では5人それぞれのラブラインに大注目。(Netflixオリジナルシリーズとして配信中)
20年のヒット作『賢い医師生活』では、俳優らが珍しいシーズン制の契約をしており、シーズン2の放送が21年6月に始まった。韓国では週2回放送がお約束のところを、プロデューサーの英断により週1回の放送契約を結ぶなど、新しい試みが功を奏している。
「事前制作によって、役者やスタッフの労働環境は改善され、放送事故も回避できる。作品クオリティーが上がったと言われています。しかし、『太陽の末裔』以降の事前制作ドラマの視聴率は、あまり芳しくありませんでした。韓国では昔から、視聴者の反応を見つつ、ストーリーを変えていく文化が根づいており、事前制作が必ずしも土壌に合うとは限らないという意見もあります。最近では半分以上撮影を終えで放送をスタートさせる"半・事前制作"も増えているようです」
このあたりを考えながら見ると、また違った見方ができそうだ。
※文中のドラマ・映画の放送年は一部を除いて韓国での年
(ライター 田名部知子)
[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]
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