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最後まで聞く、説得しない…精神ケア新手法の対話術

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

従来は薬が不可欠だった精神疾患の症状緩和に、対話だけで高い効果が得られると注目されている「オープンダイアローグ(開かれた対話)」。対話を重ねるうち、患者の症状だけでなく、こじれていた家庭内の人間関係まで修復されていくことが多々あることも、その利点の一つだ。最終回は、オープンダイアローグをやってみたい方へ向けた実践編。親子間や職場でのコミュニケーションに取り入れることも可能で、特に「話がかみ合わない」「すぐけんかになってしまう」など悩みがある場合に役に立つという。具体的な実践方法や注意点などを、引き続き精神科医の斎藤環さんに伺っていく。最後のページに対話実践の基本もまとめた。

最後まで関心をもって聞き切る

――オープンダイアローグの原則は、「(相手を)変えようとしない、対話自体を継続することが目的」ということでした。この手法は、例えば親子間や職場でのコミュニケーションの改善にも使えるのでしょうか。

斎藤さん はい、使えるでしょう。抑圧されない、頭ごなしに否定されない対話の時間は、家庭であっても職場であっても必要だと思われます。

特に、話がかみ合わない、すぐにけんかになってしまう、関係が悪化しているなど、コミュニケーションにおいて悩みがある場合には役に立つと思います。対話は互いを対等な存在として行うので、親子や職場での上司と部下といった関係性をフラットにして、風通しの良いものにしてくれます。

――なるほど。離婚問題や教育問題などで夫婦が対立している場合にも、良さそうです。まず家庭で取り入れるには、具体的にはどのようにすればいいですか?

斎藤さん 基本は、互いに最後まで話をしっかり聞くということですね。その時には、1対1ではなく複数メンバーが参加するほうがいいですね。友人・知人などつながりがある人を招いてやってみてください。視点が変わって、いろいろなことに気付きやすくなります。

親子間の場合、子どもが小さいうちは特に、親子関係にはすでに力関係があります。だから第三者に入ってもらうことが大切なのです。そして子どもの話を否定しないで聞いてください。とにかく最後まで話させることを心がけましょう。

「今日はあなたの話を聞かせてもらえる?」

「よかったら、その話を詳しく教えてもらえるかな」

こんなふうに聞いてみるといいでしょう。

聞く側の姿勢としては、「あなたのことをもっと知りたい」という興味関心を前面に出して、向き合うことです。自分のことを知りたいと言われると、人はうれしくなって話したくなります。そして、じっくり話を聞いてもらうと満足します。聞きっぱなしではなく、反応を返しながら、対話を続けてさえいればなんとかなります。

逆に、「対話が続かなくなったら失敗」ということです。「正しいこと」を追求すると対話はすぐ終わってしまいますので要注意です。対話というのは基本的に「主観と主観の交換」であると考えてほしいのです。時間にして1時間~1時間半ぐらいを目安に。何も結論が出なくてもいい、「今日はここまでにして、またにしましょう」でも構いません。

説得やアドバイスは対話ではない

――自分が正しいと思っていると、「それは違うと思う」「なぜそうなの?」と相手の話をさえぎったり、「それはこういうことでしょう」とまとめたりしたくなってしまうものですが、それにどう耐えるか、ですね。

斎藤さん そうですね。態度はいろいろな形で伝わりますから、言葉にしなくても「こっちが聞いてやる、決めてやる」という態度ではこじれます。

対話の目的は、相手を変えること、正すこと、結論を出すことではありません。対話でしてはいけないことの筆頭は「説得」です。相手を変えることばかり考えている人は、結局相手のことを考えていません。そうされてうれしい人はいませんよね。常に意識してほしいのは、「徹底して、他者を尊重しましょう」ということです。

――この記事の第1回(「メンタルケアの新手法『オープンダイアローグ』って?」)で紹介した、専門家同士が患者の目の前で自分たちの意見や感想を交換し合う「リフレクティング」は、患者にとってはとても新鮮な体験だと思いました。家庭や職場におけるオープンダイアローグの際にやってみたい場合、どんなタイミングで始めたらいいでしょうか。

斎藤さん 対話の途中で、いつどこで始めても、何回やっても構いません。

例えば、子どもの目の前で、今話題に出ていたことに関して両親や友人、知人などが子どもの頑張りや工夫を評価したり、「他にこんな方法もあるね」と話し合ったりして、それを聞いてもらいましょう。ルールとしてできるだけネガティブなことは言わないようにします。分からなければ分からないなりに、「こういうことかなと思った」「自分ならこうしたいと思う」というふうに提案してみるのもいいですね。「あれはさっぱり分からないよ」とか「なんでああいう言い方になるのかな」とか、そういう批判的なことは言うべきではありません。

それに対して、本人が「そうじゃない!」と話してくるかもしれません。相談したそうにしていたら、リフレクティングが終わった後で、さらに対話を広げていってもよいでしょう。リフレクティングでは、ついその場で一番力のある人に迎合してしまいがちですが、対話はハーモニー(調和)ではなくて、ポリフォニック(多声的)であればあるほどいいのです。いろいろな意見が同時多発的に出てくるように心がけてください。多くの人にとってリフレクティングは新鮮な経験なので、ぜひ試してみてほしいですね。

フィンランドでは会議にも対話を活用

――職場ではどのように活用できますか?

斎藤さん オープンダイアローグ発祥の地、フィンランドのロヴァニエミ市では、市議会運営にもオープンダイアローグが取り入れられています。「対話モード」と「議論モード」を使い分けるのです。会議で議案を決める時には、議論をして多数決で決まりますが、これではいつも多数派の意見が通ってしまいます。そこで、その議論の前提条件を作るときに「対話」をきっちりやりましょうと決めているんですね。

その目的は「少数意見を丁寧に拾う」ことにあります。いきなり結論を出そうとすれば相互理解は深まらず、ただ対立するのみとなってしまいます。最後まで聞くという対話の考え方を取り入れると、なぜ他人がそういう意見になるのかを知ることができ、相手への理解が深まります。一人ひとりの意見を尊重しているので満足度も高い。たとえば職場でのミーティングにおいて、対話と議論を上手に使い分ければ、いろいろなメリットがあると思います。

――なるほど。具体的にはどのようにすればいいですか?

斎藤さん ビジネスでは期限というものがありますから、どんな時でも対話がいいわけではありません。決定しなければならない場面ではディスカッション、でも時には対話によるミーティングを行ってみるとよいと思います。難しいのは、上下関係を作らずにできるかどうか、一個人として互いに尊重できるか。

はじまりは「今日は自由に話しましょう」と呼びかけるだけで構いません。そうすることで参加者の抵抗が減ります。ルールとしては、開かれた対話(はい、いいえで答えにくい質問)を心がけます。参加者はできるだけいろいろな質問をして、「その人の世界・主観を知りたい」という関心や好奇心を大切にしてください。その人が話している時には、話をさえぎらないように。聞くことと話すことを丁寧に分けることを意識します。〇〇部長といった肩書で呼ぶことはやめて、すべて「〇〇さん」と呼ぶようにしましょう。対等性を守るためです。

ハーモニーではなくポリフォニーを大切に

――職場では上下関係がはっきりしているので、慣れるのに少し時間がかかりそうですが、やってみると互いの理解が進んで、日常的に話しやすくなりそうです。

斎藤さん そうですね。オープンダイアローグの良いところは導線がたくさんあるところ。1対1ではなくいろいろな線が引けるからポリフォニック(多声的)になりやすいんですね。

結論ありきでは、対話のダイナミズムを殺してしまいます。自分にも相手にも、双方向で変化が起こるのが対話なので、目的は"邪魔"になります。ゴールを決めずに対話そのもののプロセスに集中することが大切です。例えば「議論を始めた人には罰ゲームあり」と決めて、ゲーム感覚で始めてみるのも一案だと思います。こうした注意点を参加者が共有できていれば、対話は、オンラインで行うことも可能だと思います。

――先ほどから「ポリフォニー」という言葉が出ていますが、これについて詳しく教えてください。

斎藤さん ポリフォニーはいろいろな意見が共存している状態のことを言います。対義語はモノフォニー。調和という意味のハーモニーも実はポリフォニーとは最も対極にあるものです。

人と調和するというのはとても気持ちがいいものです。しかし、実はその裏で一部の人を疎外したり否定したりしてはいないでしょうか。その場から違和感が消え、なんでもOKになってしまう状況は、オープンダイアローグでは一番避けたいことです。分かりにくいことは一つひとつ質問を繰り返すようにしましょう。分かったつもりになったり、批判したり、話をまとめてしまうことを、いかに我慢できるかが鍵になります。

ハーモニーは隙間がなくて一色になってしまった状態。対してポリフォニーは、多様な色があって隙間だらけなんです。

――つい私たちは正しい答えを出そうとして、一つにまとめてしまいやすいので注意したいですね。特に職場では、上司が何か言うと「そうですよね」と無意識に迎合してしまいがちですから。

斎藤さん 互いを知るのに「アルコールを飲んだらいいんじゃない?」という人がいますが、アルコールが入ると人は簡単にハーモニーになってしまうんです。これは非常に危険な状態なので、飲んでいる時の結論は信用しないほうがいい。しらふの状態でポリフォニックな対話をするのが、ベストです。

会話が「合意や同一化を目指すもの」だとしたら、対話は違いを受け入れるためのもの。「違っているからこそ、対話ができる」とも言えるかもしれません。オープンダイアローグの素晴らしいところは「隙間こそが大事」だとする姿勢です。隙間や余白があって初めて人は主体性を回復すると考えるのです。調和ではなく、互いの違いを掘り下げることに集中して取り組んでみてください。みんなの意見が簡単に一致したら、これは対話ではないなと気づいてください。

対話実践の基本

できれば始める前に「対話実践のガイドライン」[注1]に目を通すとよいでしょう。「振り返りのためのチェックリスト」もこの中にあります。

<基本ルール>
□対話の目的は「変えること」「正すこと」「(何かを)決定すること」ではない。対話を続け、広げ、深めることを目指そう
□「議論」「説得」「説明」は対話の妨げにしかならないことを理解しよう
□当事者の主観、すなわちその人が住んでいる世界をみんなで共有するイメージを大切に。「正しさ」や「客観的事実」のことはいったん忘れよう
□対話が安心・安全の場になることを大切にしよう

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<大まかな流れ>
●問題を抱えた当事者のチームとその他のチーム、それぞれ複数人数で集まってスタート(少なくとも3人以上)。ファシリテーター(進行役)を決めて対話を始める
●全員が発言しやすいように心がける
●聞くことと話すことを丁寧に分ける。誰かが話しているときはさえぎらずに聞く姿勢を大切に
●傾聴するだけでなく、ちゃんと応答するのがマナー
●リフレクティング・トークをやってみてもいい。当事者チーム以外の人が、その場で感想やアイデアを話し合う。具体的なアドバイスがあればここで行う。一通りやりとりしたら、当事者チームに感想を聞いてみよう
●ファシリテーターが締めくくる。「ミーティングを終える前に、もう一度お話ししておきたいことはありますか」などと言いながら、感想を詳しく聞いたり、次回のミーティングの予定などを決めたりする
●全体の時間は1時間~1時間半程度で十分
●終了後、当事者に「振り返りのためのチェックリスト」を渡して評価してもらおう

[注1]オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパンのホームページ(https://www.opendialogue.jp/)にある「対話実践のガイドライン」を参照のこと。

(ライター 及川夕子)

[日経Gooday2021年10月14日付記事を再構成]

斎藤環さん
精神科医、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。1961年生まれ。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、「ひきこもり」の治療、支援ならびに啓発活動。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)共同代表。主な著書に『改訂版 社会的ひきこもり』(PHP 新書)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)、『開かれた対話と未来』(監訳、医学書院)、『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院)ほか多数。

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