米国の気候オアシスとして新たに注目されているのも、ミネソタ州やミシガン州など北部の州だ。これらの州は、豊富な水資源に恵まれ、今後は冬の寒さが和らぐと予測されている。

ミシガン州では、温暖なフロリダ州やアリゾナ州に移住する人口が流入人口を上回る状況が続いているが、その一方で、フロリダ州ではなくミシガン州に退職後の住まいを購入する人が増え始めている。
また、ミネソタ州のダルースは 「気候難民の安息地」として名前を知られるようになっている。若い世代には、比較的物価が安いバーモント州が人気だ。同州は、州内に移住したリモートワーカーに補助金を支給しているほか、農業共同体が、ポスト資本主義を志向する人たちのある種の避難場所になっている。

大規模な再定住計画の策定を
数十年間に及ぶ気候変動交渉にもかかわらず、温室効果ガスの排出削減に失敗し続けていることは、効果的な国際協調による統治の欠如を表している。国家の主権にとって特にデリケートな領域である移民政策についても同様だ。各国政府は、国内に受け入れるべき人々やその人数について国際機関から指示されることを望まない。
だが、大規模再定住計画の策定は、いずれ強いられる最悪の選択肢ではない。私たちが今すぐにできる、道徳的で実際的な責務だ。各国政府が、社会的・経済的必要性に応じて新たな移住者を受け入れる過疎地域を指定し、持続可能なインフラに投資すれば、すべての人に住まいを提供することができる。例えば、移動可能な建物や住居を3Dプリンターでつくるというアイデアも考えられる。
新型コロナ対策としての移動制限は、人類史上で最も世界が協調した措置だった。しかし、居住に適した地域の変化という避けられない現実に対応するため、国境を見直し開放すべき時期に、国境封鎖が強化されてしまったのは皮肉なことだ。現在、外国への移住を希望し、その能力がある人は約40億人いると筆者は試算している。これは、世界の若年層の人口にほぼ匹敵する。
環境に配慮した住宅や灌漑(かんがい)システムの建設などによって、生産的な貢献ができる場所に若者たちが移動しやすくなれば、今後の激動の数十年における困難も和らぐだろう。
人類は、適切な緯度・高度・態度を追求する生き物になりつつある。クジラや鳥、カリブー(トナカイ)のように、私たちは最適な環境を求めて絶え間なく住む場所を変えることになじんでいくしか道はない。これは、それほど異様なことではないだろう。なんといっても、人類は歴史の大半で放浪の民だったのだ。それならば、私たちは住み慣れた土地を離れて移動することで、人間であることの意味を再発見するのではないだろうか。
(文 PARAG KHANNA、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年10月4日付]