セリフやカットは少なめ、注ぎ方はゆっくり
CMの演出でこだわった部分は大きく3点ある。まずはセリフやカット数を詰め込まず、ゆとりを持たせた点だ。
「CM内のセリフでも『心のゆとりを忘れてしまいそうで』とあるので、せわしない空気を出さないよう意識した。ブランドが癒やしやぬくもりを重視しているのに、制作側が多くを語りすぎると印象が損なわれてしまう」(大場氏)
2つ目は、竹内まりやの楽曲「元気を出して」を使用した点だ。この曲は竹内まりやが作詞・作曲し、1984年に薬師丸ひろ子へ提供された。その後88年にセルフカバーされた、優しい歌詞と曲調が耳に残る名曲だ。今から30年以上前の楽曲ながら、現在の若い世代にも人気がある点を加味して選曲したそうだ。
「(竹内まりやさんの楽曲は)今では海外も含めて、若い世代もYouTubeで再生し、人気が再燃している。『レトロなコンテンツの魅力』と『現代の消費者のインサイト』、どちらかを強調するのではなく共存させることで、マルエフも時代を超えて受け入れてもらえたらと考えた」(大場氏)
3点目は、ビールの飲み方や注ぎ方をゆったりと丁寧に表現したところだ。
「従来のビールのCMは、ゴクゴクと量を飲んで、『くう~』とうなるようなシーンが一般的だった。マルエフでは、それとは一線を画す『ほっ』とするイメージを持たせたかったので、新垣さんには飲み方などを意識してもらった」(大場氏)

セリフの量やビールの飲み方などは、ぱっと見ただけでは気付きにくいポイントだ。だからこそ消費者に、CM全体の雰囲気から自然に感じとってもらえるよう配慮した。こうした細部へのこだわりが、商品の魅力とコンセプトのバランスを崩さない表現につながっている。
「CM内の『日本のみなさん、おつかれ生です』という大きな“主語”も、新垣さんだからこそ嫌みに聞こえなかった。こちらがイメージを伝える際も、新垣さんは熱心に耳を傾けてくれ、個々の細部のシーンを確認しながら撮影できた」と、制作中のエピソードを語り、世代や年齢を超えて受け入れてもらいやすいCMに仕上がったと大場氏。
アサヒビールでは、21年12月11日から年末バージョンとして第2弾のCMを放映中だ。第1弾を踏襲する形で、屋上のシーンと飲食店の描写を織り交ぜている。22年1月からは年始バージョンも放映予定で、時節に合わせながら、より近い距離感で消費者の心に寄り添っていく。
せわしない師走のイメージや、親族などと触れ合う機会も増える年末年始。アサヒビールはこれまでにない、ビール商品の「ぬくもりや温かさ」をCMを通して消費者に訴求し、一層の認知拡大と飲用喚起を促していく。

(ライター 佐藤隼秀、写真提供 アサヒビール)
[日経クロストレンド 2021年12月22日の記事を再構成]