商品コンセプトや背景を満遍なく訴求

CMは3部構成になっている。

第1部は、仕事帰りを思わせる新垣が、歩く人々と足早にすれ違いながら街並みの中を歩くシーンだ。この場面ではせわしない世相を表しており、「何かと忙しい時代、心のゆとりを忘れてしまいそうで」と新垣が口にする。

街中でのシーンが終わり、居酒屋ののれんが映し出される光景からが第2部だ。にぎわう客であふれる店内が映し出され、カウンターに座った新垣が満面の笑顔で、グラスに注がれた生ビールを店員から受け取る。人と人のつながりや、温かさを連想させる描写だ。ここで「ずっと前からお店で愛され続けてきた、このまろやかなアサヒ生ビールで」というセリフで、マルエフの商品コンセプトや飲食店で提供されてきたストーリーを伝える。

カウンター越しにビールを受け取り、笑顔の新垣

その後、新垣が飲んでいるグラスにカメラが寄っていき、場所が居酒屋から自宅のベランダへ転換する。ここからが第3部だ。飲食店だけでなく、仕事終わりの自宅でもリラックスして、オフの時間を満喫できる良さを強調する。新垣は缶のマルエフをグラスに注いだ後、カメラ目線で「日本のみなさん、おつかれ生です」と、ねぎらいの言葉をかける。第2部で演出した商品コンセプトに、だめ押しとも言える新垣の癒やしの魅力を掛け合わせ、CMが終わる。

大場氏によれば、あるCM調査会社からは「新垣結衣や竹内まりやの楽曲に癒やされる」「マルエフはまろやかでおいしい」といったユーザーからの反響があると伝えられ、想定通りの宣伝効果が得られているそうだ。

「9月の販売休止から再発売まで2カ月以上空いたので、(マルエフに対する)消費者の印象が薄れてしまう恐れも大いにあったが、販売再開を待ち望む声が多かった。CMの内容に加えて、消費者に商品価値が伝わったからこそ、販売再開時の勢いにつながった」と大場氏。

ただ、ブランドイメージをここまで忠実にCM内で実現できたのは、新垣の起用や時代の空気感をくみ取っただけではない。大場氏は制作段階での苦労をこう打ち明ける。

「CMの雰囲気だけを重視すると、情感は伝わっても商品自体のおいしさが消費者に届かないことが多々ある。今回なら、ぬくもりやリラックス感を出しすぎると、ビールなのに『温かい商品のようだ』と違和感を持たれたりとか。ブランドの目的、商品の特性や歴史、新垣さんのセリフをはじめ、CMの世界観を醸成する要素がどれも欠けないよう注意した」(大場氏)

「1つボタンをかけ違えると、伝えたいことが正確に伝わらない。まさに糸を紡ぐような作業だった」と、大場氏は制作過程を振り返る。「爽快感やキレの良さ」といった従来のビールとは異なるマルエフらしさを醸成しつつ、商品の魅力を届けるために、実はCMの製作陣がこだわった点がある。

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セリフやカットは少なめ、注ぎ方はゆっくり