メコンの30kg超える巨大魚 相次ぐダム建設で絶滅危機

日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/1/24
ナショナルジオグラフィック日本版

1986年、メコン川から引き揚げられたメコンオオナマズを見る人々(PHOTOGRAPH BY ROBERT NICKELSBERG/GETTY IMAGES)

ヒグマほどもあるオオナマズや、コイの仲間のタイガーバルブ、ナマズの一種パンガシウスなどの巨大魚が、産卵のためにメコン川を北上する姿が、ラオス北部にある世界遺産の古都ルアンパバンではかつてはよく見られた。しかし乱獲により、現在ではそのような巨大魚の姿を見ることはまれだ。

それでも、多くの科学者は中国より南側にダムが建設されない限り、絶滅の危機にひんしているこれらの魚はいずれ回復する可能性があると考えていた。

しかし、その希望は薄れつつある。ラオスは今後10年間でメコン川本流に少なくとも10基のダムを建設する計画を立てている。その最初のプロジェクトが、ルアンパバン上流に建設される巨大水力発電所「ナムサン」だ。

ラオスの共産党政権は、東南アジアの電力供給源となるべく水力発電を推進し、メコン川の支流に何十基ものダムを建設してきた。2027年完成予定のナムサンなどの新しいダムも、タイをはじめとする近隣諸国への売電で、政府に収入をもたらすと期待されている。

「これらのダム計画が進めば、かつてさまざまな巨大魚の主な生息地であり産卵地であったメコン川は、ますます小さく切り刻まれてしまうでしょう」と、米ネバダ大学リノ校で20年以上、メコン川の巨大魚を研究している魚類生物学者のゼブ・ホーガン氏は言う。「流れのある川でなければ生きていけない種にとって、これは致命傷になるかもしれません」。氏はナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもある。

ナムサン・ダムの建設に携わるベトナムの国営企業ペトロベトナムは、このプロジェクトが野生生物へ影響を及ぼす可能性について、ナショナル ジオグラフィックのコメント要請に応じなかった。衛星写真では、作業員のための住居が建設されている様子が見えるが、ダム建設はまだ始まっていない。

メコン川以外でも、大型魚やイルカ、ワニなどの大型淡水動物が、新たに建設されるダムの脅威にさらされている。ドイツのライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所の淡水生態学者である何逢志氏が率い、学術誌「Biological Conservation」に21年11月付で掲載された最新の論文によると、世界中で3400以上の大規模水力発電プロジェクトが計画中または建設中だ。そして、それらの大部分は熱帯地域の生物多様性の高い河川で行われ、巨大な動物たちに多大な影響を与えることがわかった。

ダムが建設されれば、多くの淡水生物の生存に「大きな不確実性が加わる」と何氏は語る。

「アマゾンやコンゴなど他の熱帯河川でも見られるパターンですが、メコンはこの問題の申し子です。加速する水力発電開発によって、世界でも象徴的な動物たちの絶滅リスクが高まっています」と、論文の共著者であるホーガン氏は付け加える。

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