人口の増加、グローバル化、環境破壊などがこのプロセスを加速させていると指摘するのは、人獣共通感染症を研究している米ニューヨークの非営利組織エコヘルス・アライアンスの副会長ウィリアム・カレシュ氏だ。「生物学の法則は変わっていませんが、その舞台が劇的に変化しているのです」

その結果、マールブルグ病、鳥インフルエンザ、エイズ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、ニパウイルス感染症、豚インフルエンザ、エボラ熱、ライム病、チクングニア熱、ジカ熱、デング熱、ラッサ熱、黄熱病、そして今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、人類を脅かす危険な疾患が空前の勢いで発生している。米疾病対策センター(CDC)によると、毎年約25億人が人獣共通感染症に感染し、約270万人が死亡しているという。これらの疾患の多くは治療法がないからだ。

昔は感染症が広まるのに長い時間がかかったが、今日では感染者が飛行機に乗れば、世界中に病原体がばらまかれる。新型コロナ感染症は、わずか21カ月前に中国で発生して以来、223の国と地域で感染が報告されている。人間はまた、気候を変化させたせいで、病気を媒介するダニや蚊の生息域を広げてきた。地球が温暖化すれば、これらの動物は新しい地域に進出する。

人類は歴史上、何度もパンデミックに見舞われてきたが、すぐにその教訓を忘れてしまうとモレンズ氏は言う。「私が知っている専門家のほぼ全員が、パンデミックは何度も繰り返されるだろうと考えています。なぜなら問題は病原体ではなく、私たちの行動にあるからです」

1918年、米コロラド農業大学内に設置された仮設病院のベッドにスペイン風邪の患者が横たわる(PHOTOGRAPH BY AMERICAN UNOFFICIAL COLLECTION OF WORLD WAR I PHOTOGRAPHS, PHOTOQUEST, GETTY)

新石器時代の大きな変化

病原体が、宿主となる人間をいちどに大勢見つけられるようになったのは、今から約1万2000年前の「新石器革命」の頃だった。人類が少人数のグループで狩猟採集生活を送っていた時代には、他者との接触がほとんどなかったため、パンデミックが発生する機会もなかった。しかし、農耕が始まり、人々が大きな集落に密集して暮らすようになると、感染症が猛威を振るうようになる。

感染の機会はたくさんあった。定住をはじめた人々は野生動物と土地を共有していた。まずはオオカミを飼いならし、その後、野生のヒツジやヤギやウシを家畜にして一緒に暮らすようになった。穀物倉庫にはノミやダニがついたネズミが集まった。井戸や灌漑設備の水たまりには蚊が発生した。

密に接触するようになった人間と動物の間で病原体や寄生虫が交換され、人獣共通感染症が種の壁を越えて広まっていった。天然痘、コレラ、インフルエンザなど、命にかかわるヒト疾患の6割程度は動物に由来する。「人間に感染するようになるまでに種の壁を何度も飛び越えた病原体もあるでしょう」と米ジョージタウン大学の歴史疫学者ティモシー・ニューフィールド氏は話す。

病原体が新しい宿主を見つけたときに何が起こるかは運次第だとモレンズ氏は言う。新しい病気が、大半の場合がそうであるように少人数に感染したところで終息するのか、それとも爆発的な大流行になるのかは、感染力の強さ、感染が広まるしくみ、流行を引き起こすのに適した宿主の有無などの要因によって決まる。

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制圧される感染症
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