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ブドウを籠に入れ海に沈める 不思議なマリンワイン

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ナショナルジオグラフィック日本版

2018年9月の穏やかな朝、ワイン生産者のアントニオ・アリギ氏は初めて、ブドウが入った籠を地中海に沈めた。太陽が降り注ぐイタリア、エルバ島の隣人たちはあっけにとられていた。「アントニオはおかしくなったのだろうか?」

アリギ氏はこのとき、ブドウを5日間海に沈め、ユリウス・カエサルも好んだと言われる古代ギリシャの逸品「マリンワイン」(vino marino、「海のワイン」の意)の製法を復活させようとしていた。

この黄金色のワインは、エルバ島が属するトスカーナ群島と深く関わっている。アリギ氏のブドウ園からそう遠くない海底では、古代ギリシャのアンフォラ(陶製のワイン壺)の破片が発見されている。その昔、マリンワインの生産地ギリシャ、ヒオス島(キオス島)の商人たちは、このワインが人気を集めていたフランス、マルセイユからの帰り道に、ミネラル豊富なエルバ島にしばしば立ち寄っていたと、アリギ氏のプロジェクトに協力したイタリア、ミラノ大学のブドウ栽培学教授アッティリオ・シェンツァ氏は語る。

21年7月、2000年以上のときを経て、この特産品が市場に戻ってきた。アリギ氏のワイナリーが240本のマリンワイン「ネソス」を発売したのだ。

イタリアでは今、古代のブドウ栽培技術を復興する動きが起きている。アリギ氏をはじめとする多くのワイン生産者が、過ぎし時代の自然で持続可能な少量生産のワインを再現しようとしている。物語のあるワインは、いつの時代も価値がある。そして、これらは味のタイムマシンでもある。

「海のワイン」復活への取り組み

マリンワインほど謎に包まれた酒はほとんどない。歴史家の大プリニウスが記録しているように、古代ローマで人気があったにもかかわらず、ヒオス島のワイン生産者は製法を厳重に管理していた。後に判明したことだが、その秘密はブドウを塩水に浸すことだった。これにより、ブドウの表面に白い粉のようにつくロウ状の成分、ブルームが自然に取り除かれ、天日で素早く乾燥させることができる。その結果、芳香が十分に保たれ、ほかにはないしっかりした味わいが生まれる。

アリギ氏のプロジェクトに協力したイタリア、ピサ大学の教授で、食品技術を専門とするアンジェラ・ジナイ氏は「海とワインには長いラブストーリーがあります」と言う。「海はワインとその文化を生産地から消費地まで、つまり、世界のすべての国に運ぶ道でした」

「私がエルバ島でやります!」とアリギ氏が宣言したのも、海とワインのつながりを知ったことがきっかけだ。アリギ氏はあるワイン会議で、遠い昔に廃れた製法を詳しく聞いた。アリギ氏はアンソニカ種のブドウをロブスター捕獲用の手編みの籠に入れ、ダイバー3人の協力を得て海中に沈め、深さや期間を変えて海水に浸した後、陶製の容器で皮ごと発酵させた。

最初の生産はわずか40本で、ピサ大学のチームが分析を行った。アリギ氏は分析結果をもとに、2度目の生産に向けて製法を微調整。19年、市場向けのワインを生産し、セラーで熟成させた。

ブドウが少量の塩分を含むため、亜硫酸塩や安定剤、防腐剤、酵母を入れる必要はない。つまり、完全に自然なワインということだ。しかも、研究室でブドウを分析した結果、心疾患に有効な抗酸化物質であるフェノール類が従来の白ワインの2倍も含まれていることがわかった。

「このようなワインは一度も飲んだことがありません。時代をさかのぼり、ワインづくりの始まりを味わうことができます。自然の秘密をより深く理解できます」とアリギ氏は語る。アリギ氏はこのワインのアロマを完熟した白い果実とアーモンドに例えている。

在来種のブドウを守る生産者

人々は歴史ある発酵飲料の再現に魅せられ、それを味わうためであれば遠くまで足を運ぶ。イタリアの古代都市ポンペイの周辺では、家族経営のワイナリーが古代ローマから着想を得たアンフォラやブドウ棚をアピールしている。

しかし、先駆的なプロジェクトが進行しているのは、現存する世界最古の円形劇場にほど近いポンペイのブドウ畑だ。ここでは古代ローマのワインを再現するプロセスをさらに一歩先へ進めている。

当地のワイナリーの一つ、マストロベラルディーノと考古学者たちは西暦79年のベスビオ山の噴火によって埋もれたブドウの証拠を調べ、土中にあるブドウの根の鋳型をつくることに成功した。その結果、在来種のブドウを特定、移植することができ、01年以降、赤のビンテージワイン、ビッラ・デイ・ミステリを毎年生産している。

そして、土着のブドウを守ることはこの10年、現地のワイン生産者に共通する思いとなっている。

世界初の100%コロンバーナ種ワイン

在来種のブドウを守ることへの関心は、新世代のワイン生産者が新しいワインづくりにチャレンジするきっかけにもなっている。例えば、トスカーナ州フィレンツェ南西の沿岸部でアグリツーリズムとワイン生産を行うファットリア・フィッビアーノは最近、世界初となる100%コロンバーナ種のワインを完成させた。オーナーのマッテオ・カントーニ氏によれば、この地方が原産のコロンバーナ種は歴史的に、ほかの品種とブレンドしてデザートワイン「ビンサント」に使われていたが、ストラクチャー(骨格)が足りないため、単独で使われることはなかったという。

カントーニ家はピサ大学の協力を得て、クリオ・マセラシオン技術を採用。ドライアイスでブドウの酸化を遅らせ、より多くのストラクチャーと酸味を抽出するというものだ。複雑な手法だが、炭素を排出しないことから、再生可能エネルギーのみでワイナリー運営を目指すファットリア・フィッビアーノの取り組みとも一致している。

「意識の高い消費者が増えています。少なくていいからより良いものを求めるのです」とカントーニ氏は語る。

「私たちが今立っている場所は、500万年前には海中でした」。カントーニ氏はブドウ園で見つかったサンゴを手にこう言った。

サンゴや貝殻とともに、カントーニ氏の敷地では先住民エトルリア人の墓も発掘された。2つの墓には金、道具、食器、ワインカップが入っていた。おそらく3000年以上前にこの地で生まれた古代文明も、大地がワインを育む力を認識していたのだろう。ファットリア・フィッビアーノが今つくっているようなワインを飲んでいた可能性さえある。

イタリアのワイン生産者はこのように思いをはせながら、古代の製法をより深く追求し、歴史書にちりばめられている点を結び付けようとしている。革新と実験、そして、ときには海に沈めることで、いにしえの人々を喜ばせていたワインが再びグラスを満たしている。

(文=JULIA ESKINS、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年9月23日付]

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