検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

タイタニック号生んだ造船所 繁栄と衰退、そして現在

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

1900年代初頭、ベルファストの造船所は、世界最高の船を生み出すとして、海を越えて称賛されていた。造船所は悲劇の豪華客船タイタニック号を建造し、100年にわたって英国北アイルランド最大の都市の経済発展に貢献し、2つの世界大戦を乗り越えた。

英国と独立を目指すアイルランドの長きにわたる血みどろの戦い、アイルランドの再統一を目指すカトリックの「共和派」と北アイルランドの英国残留を希望するプロテスタントの「王党派」との30年に及ぶ「厄介事」を目撃した。そうして2003年、最後の船を完成させると、造船所はその歴史の幕を下ろした。

北アイルランドの誕生から100年が経過した今、この工業地帯は観光施設タイタニック・ベルファストや歴史的な海事関連施設を擁する英国有数の観光地に生まれ変わっている。タイタニック号が建造された船台は街を代表する野外パフォーマンス会場になり、その活気が評価され、ベルファストは2021年、ユネスコの音楽都市に選ばれた。さらに、ケネス・ブラナーの新作映画「Belfast(ベルファスト)」では、造船所が映画館の大型スクリーンを彩っている。激動の1960年代をこの地で過ごしたブラナー自身の幼少期から着想を得た映画だ。

かつて世界一の生産量を誇った造船所は、今は街の核を成す存在ではないが、この土地の歴史を包み込む場所として存在感を放っている。34万人のベルファスト市民にとって、造船所は街の遺産を照らし出すだけでなく、地域社会を結び付け、インスピレーションを与える役割も果たしている。

タイタニック号の野心

19世紀後半、ベルファストの造船所はアイルランド最大の惨事を乗り越え、街のかじ取り役を担った。1845~1851年、アイルランドは大飢饉(ききん)に見舞われた。ジャガイモの疫病に英国の残酷な政策が加わり、最終的に100万人が死亡し、200万人が国外に脱出した。

人々は職を求めてベルファストに押し寄せた。ベルファストの人口は1851~1901年に4倍まで膨れ上がり、多くの人が造船所の仕事に就いた。ベルファスト・タイタニック協会の会長スージー・ミラー氏によれば、1900年代初頭にはハーランド・アンド・ウルフが世界最大の造船会社になり、同じベルファストのライバル、ワークマン・クラークが世界第5位にランクインしていたという。

この繁栄のさなか、ハーランド・アンド・ウルフがタイタニック号を生み出した。タイタニック号は世界最大の客船で、1912年の処女航海中、氷山に衝突、沈没した。乗員乗客合わせて2200人以上のうち約1500人が犠牲になった。1997年に公開され、史上最大級の興行収入を記録したジェームズ・キャメロン監督の映画「タイタニック」をはじめ、この物語は多くのドラマチックな改作によって広く知られている。

事故の後、原因を究明するために2つの大規模な調査が行われ、メディアは上級スタッフの責任を追及し、ベルファストの街全体が喪に服した。

変化の波

タイタニック号が北大西洋に沈んだ直後の10年間、アイルランドが英国からの独立を積極的に推し進め、造船所は複雑な政治、社会的対立に巻き込まれた。英クイーンズ大学ベルファスト校の名誉教授で、アイルランドの歴史を専門とするショーン・コノリー氏によれば、背景にはベルファストの長年にわたる宗派対立があり、造船所の火種にもなっていたという。

第1次世界大戦後の不景気で仕事が減り、ベルファストのウオーターフロントにも不況の波が押し寄せた。そして1920年、くすぶっていた火種がついに爆発。カトリックを中心とした数千人の労働者が造船所から追放された。「(第1次世界大戦で)忠誠心の高いプロテスタントが王と国のために戦っている間、カトリックは造船所の仕事をしていたという主張が怒りを増幅させました」とコノリー氏は説明する。

その後の造船所の運命は何度か大きく揺れ動く。第2次世界大戦で立ち直ったかと思えば戦後は落ち込み、クルーズ船の建造によって回復したかと思えば1960年代は航空ブームのあおりを受けて急激に衰退する。そして2003年を最後に船が建造されなくなると、造船所があったウオーターフロントの再開発が計画された。こうしてタイタニック号の海難事故から100年目にあたる2012年、「タイタニック・クオーター」がオープンした。

現在、北アイルランドは多くの国を対象に、ワクチン接種を終えた旅行者を受け入れている。そして、この地区にも観光客が押し寄せている。1億3500万ドルをかけて建設されたタイタニック・ベルファスト、かつてタイタニック号の乗客を運んだノマディック号、マリーナや博物館、アートトレイル、歴史的な船舶関連施設を巡る遊歩道マリタイム・マイルを楽しむことができる。

タイタニック・ベルファストはベルファスト随一の観光名所であり、タイタニック号の遺物を展示しない方針であるにもかかわらず、使い古されたタイタニック号の物語の新たな側面を見せることに成功している。沈没したタイタニック号は1985年、米国の海洋学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー・イン・レジデンス(協会が支援する上級研究者)でもあるロバート・バラード氏によって発見された。

マリタイム・マイルの遊歩道は、ダウンタウンのクイーンズ・スクエアから出発する。ラガン川の左右どちらかを北上していくと、ベルファストの海運の広範な歴史を伝える名所がずらりと並ぶ。

クラレンドン・ドックはベルファストに現存する最古のドックだ。シンクレア・シーメンス教会には海事関連の遺物が多数展示されている。グレート・ライトはかつてベルファストで最も大きな灯台の光学装置だった。タイタニック号を建造したドックとポンプ室もある。ベルファスト・ハーバー・ヘリテージ・ルームでは「A Port That Built a City(1つの都市をつくった港)」という常設展示が行われている。

造船所の遺産

タイタニック・クオーターには批判的な意見もある。英スコットランド、アバディーン大学の名誉教授で、空間計画を専門とするウィリアム・ニール氏は、タイタニック号の悲劇に対する敬意より商業的利益を優先した開発だと考えている。「タイタニックの名を冠したこの建物はクルーズ船から売り上げを吸い上げており、開発業者にとってはまさに金のなる木です」とニール氏は指摘する。「この場所は近代化への信頼を揺るがした惨事の震源地にあたります。そのように敬意を表すべきでした。ベルファストは開発業者に支配され、浅はかな商業化が本物の記憶に置き換わろうとしています」

北アイルランド、アルスター大学の観光学教授スティーブン・ボイド氏は、造船所は悲劇や論争と深く結び付いているにもかかわらず、ベルファストのアイデンティティーの一部になっていると話す。宗派対立に焦点を当てたパブリックアートが中心だったこの街で、多くの壁画に造船所が描かれ始めている。

「ベルファストには親族が造船所、タイタニック号で働いていたという人がたくさんいます」とボイド氏は話す。「特に街の東側では、それがアイデンティティーの大きな部分を占めています。かつて政治的な壁画が描かれていた多くの壁に、今ではタイタニック号や造船所が描かれています」

これはベルファストのコミュニティーに長く存在した亀裂を修復するための重要な試みだと語るのは英ウルスター大学の歴史学者カイル・ヒューズ氏だ。「(1998年に)北アイルランドの和平プロセスが始まって以来、宗派的、自警団的な壁画から地域文化の明るい面を反映したものに刷新しようという努力が続けられています」。造船所の遺産は「多くの人が本当に良いと思っているものです」

ベルファストのウオーターフロントには今も、勝利と緊張が存在し続けている。歴史の浮き沈みを考えると当然かもしれない。ベルファストに造船所がそびえ立って160年以上が経過した現在も、それらはこの印象的な街に複雑な影を映し出している。

(文 RONAN O'CONNELL、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年12月6日付]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_