2022/1/25
(イラスト:三島由美子)

「夜のおしっこで何度も目が覚める」悪循環の構図

軽い尿意でも目覚めてしまうようになる原因の一つが、睡眠中の感覚刺激に対する覚醒閾値(いきち)の低下である。覚醒閾値とは睡眠中の人を目覚めさせるのに必要な刺激の強さ、と言い換えてもよい。例えば、睡眠ポリグラフ検査で睡眠の深さをモニターしながら寝てもらい、同じ深さの睡眠段階にある時に音を聞かせて覚醒反応が生じるのに必要な音量を計測すると、年齢とともに低い音量でも容易に覚醒するようになる。

睡眠中には周囲の音や、温度、触覚、臭いなどの感覚刺激がそのまま大脳に伝わり睡眠が中断してしまわないようにフィルターをかける機能が働いている。脳内の視床と呼ばれる部位がその役割を果たしている。視床によるフィルター機能は覚醒中にも働いていて、例えば何かに集中しているときに周囲の物音が耳に入ってこない(実際には入っているが大脳で意識されない)のも視床フィルターのおかげだとされる。高齢者、特に不眠傾向のある人では睡眠中に視床フィルター機能が低下しているため、軽い尿意でも覚醒しやすくなっていると考えられている。また、当然ながら深い睡眠に比べて浅い睡眠では覚醒閾値は低い。加齢とともに浅い睡眠が増加するため必然的に覚醒しやすくなる。

以上をまとめると以下のようになる。

高齢者ではもともと膀胱の蓄尿機能が低下して尿意を感じやすい

+

睡眠が浅くなり覚醒閾値が低下している

「トイレに行っておかないとまた目覚めてしまうのでは……」

という不安から軽い尿意でもトイレに!

トイレまで歩くことでますます目が覚めてしまう

その後の眠りがさらに浅くなる

……

(画像提供:三島和夫)

尿意と目覚め。どちらが鶏で卵なのか……人によって異なるが、いずれにせよ鶏→卵→鶏の連鎖(悪循環)を生んでいることは間違いないようだ。

家庭でもできる対策

さて、夜間の頻尿に対して何か家庭でもできる対策はないだろうか。日本排尿機能学会と日本泌尿器科学会が作成した「夜間頻尿診療ガイドライン」では夜間頻尿に対してまず行うべき対策として“行動療法”を推奨している。そのうちの幾つかをご紹介しよう。

(1) 夜中に水分を取り過ぎないこと。とはいえ、脱水になると脳梗塞のリスクが高まるのでほどほどに。ちなみに、「水をたくさん飲めば『“血液さらさら効果』で脳梗塞や狭心症を予防できる」というのは俗説で科学的根拠はない。

(2) アルコール、カフェインは尿量を増やすのでできるだけ避ける。

(3) 減塩も効果がある。塩分を取り過ぎるとふくらはぎに水が溜まりやすくなり、夜間にその水が血液中に戻って尿になってしまうからだ。厚生労働省の推奨する1 日塩分摂取量の上限(男性8グラム、女性7グラム)を超えている人が減塩した結果、夜間排尿の回数、尿量が減ったという報告がある。

(4) 夕方あるいは夜間に散歩やダンベル運動、スクワットをする。運動することでふくらはぎに水分が溜まりにくくなる。睡眠の質も高めたいのであれば夕方の運動がオススメ(「お風呂で快眠できるワケ」)。

(5) 巻いたタオルケットなどの上に足をおいて横になり昼寝する。やはりふくらはぎから水を追い出す効果がある。夜中の睡眠の質を下げないように昼寝は30 分以内にしよう。

そのほかにも、禁煙も効果があるとされる。いずれも自宅で簡単に実行できるものばかり。夜間頻尿でお困りの方は試してみてはどうだろうか。

三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2021年10月14日付の記事を再構成]