井上芳雄です。ミュージカル『ナイツ・テイル-騎士物語-』の帝国劇場での東京公演が11月7日で千秋楽を迎えます。9月13日に大阪・梅田芸術劇場メインホールで開幕して東京、福岡と続く、3カ月にわたるロングラン公演が2カ月目を終えようとしています。これだけ大規模なミュージカルをシングルキャストで3カ月間、長期公演するのは最近では珍しいと思います。体力的にも精神的にもハードですが、自分にあった調整のやり方を見つけていくのも俳優の仕事の醍醐味です。

今は大規模なミュージカルはダブルキャストやトリプルキャストが当たり前なので、3カ月間、1人の俳優が同じ役をやるのは大変なことだと、今回あらためて実感しています。全部の公演に出ること自体エネルギーがいるのに加えて、帝劇のような大劇場は舞台も広いので自然と運動量も増えるし、広い空間を満たすという意識が働くので、より大きなエネルギーが必要です。毎回の公演を成り立たせるために150人くらいのたくさんの人がかかわっているし、その規模の大きさや3都市で約90公演という上演回数の多さを考えると、普通の規模の劇場でやる公演とは体も心もちょっと違う感覚になります。
毎日公演を続けていると、まず体が疲れてきます。そのなかで日々ベストパフォーマンスをお見せするために、どうするか。若いころは体力と気力だけでやっていたと思うのですが、40代に入ってからは気持ちだけではどうにもならないのを感じます。一方で、若いころは急にけがをしたり、のどの調子が悪くなったりしましたが、今はあまりそういうことはなくなり、安定しています。急に悪くならないよう気をつけているし、少しでもおかしくなったらすぐ病院へ行くなり、ケアすることも覚えたので。悪くならないための知恵を日々更新しているというのかな。体のどこかが疲れていたら、それをカバーするにはどうすればいいかを見つけていくのが、ロングラン公演を演じる醍醐味でもあります。
疲れがたまる箇所は毎日違うし、公演期間が長いほどいろんなところに影響が出てきます。分かりやすいのは、やっぱりのどです。声帯が疲れるのもあるし、その周りの筋肉にも負担がかかります。もし右と左の声帯に差を感じて、左が疲れていると思ったら、その日は右重心で歌ってみるようにします。でも、それができるのは公演1回分くらい。やり過ぎると右に負担がかかるから、次は左寄りにしてみて、整ってきたら普通に真ん中で歌うようにしてみます。口の中で、声の当たる方向を変えるような感覚です。