新作バットマン公開 作品を振り返り見えてきたことは

日経エンタテインメント!

主人公ブルース・ウェインを演じるのはロバート・パティンソン。クリストファー・ノーラン監督作『TENET テネット』で主人公を助けるニール役の好演が記憶に新しい (c) 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC
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アメコミの代表的なヒーロー、バットマンが主人公の映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が3月11日に公開された。

バットマンはこれまでも何度か映画が作られている(1989年以降、バットマンが主役の作品が7作、バットマンと他のヒーローが一緒に活躍する作品が2作)が、バットマンが主役の作品は『ダークナイト ライジング』(2012年)以来、10年ぶり。この機会に、バットマンの特徴や歴史を紐解(ひもと)いてみよう。[※シリーズの流れを説明するために、映画のストーリーに触れている部分があります]

ダークヒーローのバットマン

バットマンは特殊な能力を持たない生身の人間のヒーローだ。舞台は架空の都市ゴッサム・シティ。この街の大富豪の御曹司ブルース・ウェインは幼いころ、父母を目の前で強盗に殺されたことで、すべての犯罪を憎み、戦いを決意。身に着けた格闘技術や、開発した最新鋭の戦闘ツールを駆使し、コウモリをイメージした黒いスーツを着てバットマンとして犯罪に立ち向かう。

バットマン(左)とセリーナ・カイル/キャット・ウーマン(右)。彼女がバットマンと敵対するのか、あるいは協力するのか、物語にどう絡んでいくかも見ものだ (c) 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC

古くは1960年代にテレビシリーズや映画化されたが、特殊効果技術の発達で本格的なアクション映画として作られたのが89年の『バットマン』だ。『ビートルジュース』の大ヒットで脚光を浴びたティム・バートン監督が監督に抜てきされ、主演は『ビートルジュース』のマイケル・キートン。映画は大ヒットし4作まで作られる。

バートン版バットマンがヒットした理由の1つは、バットマンをある種のダークヒーローとして描いたことだ。それまでバットマンと言えば60年代のテレビシリーズ――キャラクターと世界観をポップでコミカルに描く――のイメージが強かった。テレビドラマとしての魅力は放っていたが、原作ファンにとっては「明るすぎ、軽すぎ」の印象があった。バートン版は、ファンが望んだハードボイルドなイメージをスクリーンに再現した。またバートンは、バットマンよりも、世間から捨てられ、狂気にかられる悪役たちのほうに感情移入して描いており、バートン映画らしさも出ていた。

だが、バートン監督×キートン主演は2作目『バットマン リターンズ』(92年)まで。その後、ジョエル・シューマカー監督と主演ヴァル・キルマーに代えた3作目『バットマン フォーエヴァー』(95年)は米国の興行収入が伸びたが、監督は同じで主役をジョージ・クルーニーに代えた4作目『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』(97年)は興行収入が大きく落ち込み、シリーズは一旦終了した。

大ヒットした『ダークナイト』

新たなバットマンがスタートしたのは、『バットマン&ロビン』の8年後。2005年に公開された『バットマン ビギンズ』からだ。監督に起用されたクリストファー・ノーランがテーマとして選んだのは前シリーズでは描かれなかったバットマン誕生の物語。バットマンがコウモリの格好をしている理由も描かれる。また、スーツやマントを最先端の素材に設定し、バットモービルを戦車のようなデザインにするなど、前シリーズと作風を変えた。

ノーラン版バットマンは、ややファンタジー要素の強かったバートン版に比べ、リアル路線。バートン版が、バットマンと敵役だけで物語を進めていくのに対し、ノーランは、警察のジム・ゴードンやゴッサム・シティの市民(犯罪者やウェイン・エンタープライズの社員も含む)など、彼らをとりまく人間たちの描写にも力をいれ、物語に広がりをみせた。

続く『ダークナイト』(08年)はバットマンの愛称である「闇の騎士」がタイトルに。ジョーカーを演じるヒース・レジャーの狂気の悪役ぶりが高く評価され、大ヒット。米国では興行収入5億3300万ドルをあげ、年間1位を記録したばかりでなく、当時の歴代興収2位を記録した。そして第3作の『ダークナイト ライジング』(12年)をもってノーラン監督×クリスチャン・ベールのバットマンは終了する。

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