井上芳雄です。日本のミュージカル創生期から活躍されてきた先輩方をお迎えしてお話をうかがう『レジェンド・オブ・ミュージカル in クリエ』の第7回を1月25日に催しました。今回のレジェンド初風諄さんは、宝塚歌劇団の『ベルサイユのばら』で初代マリー・アントワネットを演じられた元娘役トップスター。少女のような、かわいらしい魅力をいつまでもお持ちの方です。僕の舞台デビュー作『エリザベート』でご一緒して以来、公私にわたってお世話になっているので、これまでのレジェンドとはまた違った関係性でしたが、それも舞台の世界ならではのすてきなことだと実感しました。

初風さんは1941年東京生まれ。61年に第47期生として宝塚歌劇団に入団。月組公演『春の踊り/サルタンバンク』で初舞台を踏まれて、67年に星組主演娘役、70年に月組主演娘役になりました。代表作は74年の『ベルサイユのばら』初演の初代マリー・アントワネット役です。『霧深きエルベのほとり』や『オクラホマ!』などにも出演され、76年に宝塚を退団。その後は、ご家庭に入られていましたが、2000年に東宝版『エリザベート』の初演で皇太后ゾフィー役として24年ぶりに舞台に本格的に復帰。それを皮切りに『ミー&マイガール』『宝塚BOYS』『蜘蛛女のキス』『ウェディング・シンガー』『ニュー・ブレイン』など多くの作品で活躍されています。
これまでに登場していただいたレジェンドの方は、草笛光子さん、宝田明さん、松本白鸚さん、鳳蘭さん、上條恒彦さん、光枝明彦さん。輝かしい芸歴に加え、共演したことがなく、ほとんどが初めましての方だったので、とても緊張しました。今回の初風さんは、僕が20歳のときに『エリザベート』でご一緒させていただいて以来、食事などにも誘っていただいたりして、お世話になっています。若いころから見守ってくださっているので、トークでも「まあ、立派になったわね」というようなことを何回も繰り返されました。そんな関係なので、いつもよりリラックスしてやれた気がします。とはいえ長い経歴なので、宝塚のころの知らないことや初めて聞く話も多く、安心感と驚きのどちらもありました。
常に明るくて楽しい方なので、食事や飲み会のときに聞く昔のエピソードはユーモラスで、とても面白く話してくださいます。なかでも僕が好きなのが宝塚時代の海外公演の話なので、今回もうかがいました。1975年9月から76年1月にかけてのヨーロッパ公演で、ソビエト連邦(現在のロシア)の5都市に行ったときの話です。初風さんが言うには「行かされたの」。お客さまには熱狂的に喜ばれたのですが、食事はライ麦パンとスープで、すぐになくなったりもして、本当に大変だったそうです。そんな苦労話を「私は肉体的にも精神的にも丈夫だったから、選ばれたの」と笑って話してくれました。最後に訪れた公演地のパリでは、ちょうどセールの時期だったので、みんなで買いもの三昧を楽しんだのもいい思い出だとか。