検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

永遠の少女 初風諄さんに寄り添われて(井上芳雄)

第109回

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。日本のミュージカル創生期から活躍されてきた先輩方をお迎えしてお話をうかがう『レジェンド・オブ・ミュージカル in クリエ』の第7回を1月25日に催しました。今回のレジェンド初風諄さんは、宝塚歌劇団の『ベルサイユのばら』で初代マリー・アントワネットを演じられた元娘役トップスター。少女のような、かわいらしい魅力をいつまでもお持ちの方です。僕の舞台デビュー作『エリザベート』でご一緒して以来、公私にわたってお世話になっているので、これまでのレジェンドとはまた違った関係性でしたが、それも舞台の世界ならではのすてきなことだと実感しました。

初風さんは1941年東京生まれ。61年に第47期生として宝塚歌劇団に入団。月組公演『春の踊り/サルタンバンク』で初舞台を踏まれて、67年に星組主演娘役、70年に月組主演娘役になりました。代表作は74年の『ベルサイユのばら』初演の初代マリー・アントワネット役です。『霧深きエルベのほとり』や『オクラホマ!』などにも出演され、76年に宝塚を退団。その後は、ご家庭に入られていましたが、2000年に東宝版『エリザベート』の初演で皇太后ゾフィー役として24年ぶりに舞台に本格的に復帰。それを皮切りに『ミー&マイガール』『宝塚BOYS』『蜘蛛女のキス』『ウェディング・シンガー』『ニュー・ブレイン』など多くの作品で活躍されています。

これまでに登場していただいたレジェンドの方は、草笛光子さん、宝田明さん、松本白鸚さん、鳳蘭さん、上條恒彦さん、光枝明彦さん。輝かしい芸歴に加え、共演したことがなく、ほとんどが初めましての方だったので、とても緊張しました。今回の初風さんは、僕が20歳のときに『エリザベート』でご一緒させていただいて以来、食事などにも誘っていただいたりして、お世話になっています。若いころから見守ってくださっているので、トークでも「まあ、立派になったわね」というようなことを何回も繰り返されました。そんな関係なので、いつもよりリラックスしてやれた気がします。とはいえ長い経歴なので、宝塚のころの知らないことや初めて聞く話も多く、安心感と驚きのどちらもありました。

常に明るくて楽しい方なので、食事や飲み会のときに聞く昔のエピソードはユーモラスで、とても面白く話してくださいます。なかでも僕が好きなのが宝塚時代の海外公演の話なので、今回もうかがいました。1975年9月から76年1月にかけてのヨーロッパ公演で、ソビエト連邦(現在のロシア)の5都市に行ったときの話です。初風さんが言うには「行かされたの」。お客さまには熱狂的に喜ばれたのですが、食事はライ麦パンとスープで、すぐになくなったりもして、本当に大変だったそうです。そんな苦労話を「私は肉体的にも精神的にも丈夫だったから、選ばれたの」と笑って話してくれました。最後に訪れた公演地のパリでは、ちょうどセールの時期だったので、みんなで買いもの三昧を楽しんだのもいい思い出だとか。

与えられた環境でベストを尽くす

当時そんな貴重な経験ができたのも宝塚にいたからで、お話を聞きながら一番変化が激しい時代を過ごされたのだなと思いました。「『ベルサイユのばら』以前の宝塚は知る人ぞ知る存在だったけど、以後は全国区になって、すべてが変わった」と言われましたが、初代マリー・アントワネット役なので、まさにその渦中にいたわけです。そしてブームの最中に海外公演に行き、最後も『ベルばら』に出演されて退団。宝塚が大きく変わった時期に、娘役のスターとしてトップを走っていたのはあらためてすごいことです。

そして退団してから24年後にまた本格的に舞台復帰したのもすごいことで、女優として特異なキャリアだと思います。それも自分から望んだというよりは、先の海外公演もそうですが、与えられた環境でベストを尽くしたのでしょう。宝塚では、最初は男役だったのですが、「娘役の方がいいわよ」と言われたので、娘役で頑張ったそうです。歌も「下手だと言われたので、すごくレッスンしたのよ」と。そうやって努力をして手に入れたものも、潔く手放すことをいとわずに、結婚したら家庭に入って、また次のステップに進みます。そして24年ぶりに『エリザベート』で舞台復帰したのも、「演出の小池修一郎先生に突然、言われたから」。自然の流れに身を任せているうちに、いろんなチャンスが巡ってくるのは、やはり人柄なのだと思います。今では宝塚のOGの中でも最上級生だし、これだけ素晴らしいキャリアをお持ちなのに、偉そうなところは全くありません。誰にでも優しくて、面倒見もいいので、本当にみんなから愛されています。

僕は『エリザベート』と『ウェディング・シンガー』の2作で共演しました。初風さんは歌声がぶれなくて、声の調子が悪かったり、出づらかったりするのを見たことがあまりありません。『エリザベート』でのゾフィーという役は、宝塚で演じてこられた役と違って、低い音で歌わなければいけなかったり、怖いイメージの義母だったりしたので、歌や演技を猛練習されたそうです。そういう苦労を全然感じさせなかったし、つらさや悲しみを含めて、人間というものを表現するのがとてもお上手で、持っていらっしゃるものが自然と演技ににじみ出るのだと思っていました。

一方、『ウェディング・シンガー』で演じたのは、下ネタをばんばん言うようなおばあさんの役。初風さんは下ネタはおっしゃらないけど、冗談はよく言いますし、一緒にふざけて笑い合うようなことも。宝塚のときは宴会部長だったとも聞きますし、みんなを楽しませるのが大好きで、いろんな顔をお持ちの方です。

近年はおばあさんの役が多いと思いますが、ミュージカルで年配の女性の役をやれる女優さんは実は少ないのです。実際はもっと若い方がおばあさんを演じることが多いのですが、初風さんは本当に重ねてきた人生の経験も生かしながら、年齢相応の役を演じられてきたという点で、ミュージカル界で大きな役割を果たしてこられたと思います。

トークの合間には2曲を歌っていただきました。まずはソロで『ラムール・ア・パリ』から『白い花がほほえむ』。当時歌っていたのと同じキーで歌われていて、きれいなソプラノを保っていました。年齢を重ねると高い音は出づらくなるのが自然なのですが、それを保っているのはすごいことです。「私は丈夫だから」とおっしゃっていましたが、やはり鍛え方が違うなと感心しました。

もう1曲は『ベルサイユのばら』から『愛あればこそ』をデュエットさせていただきました。初風さんは、少女のような、かわいらしいところをずっと持ち続けている人で、歌うとそれがいっそう伝わってきました。「メインのメロディーを歌ってくださいね。僕がハモるので」と言っていたのですが、初風さんは自然とハモってしまうんです。僕が1人でメロディーを歌うはずだったところも、後を追うようにハモってくださいました。きっと娘役として、ずっとそうやってハモってきたんだなと感じました。初風さんに寄り添われて、一緒に歌えたのがとてもうれしかったですね。

こんな日が来るなんて思わなかった

その後、僕はソロで『エリザベート』から『愛と死の輪舞』を歌いました。僕は見えなかったのですが、初風さんはずっとうれしそうに後ろから見守っていたよ、と後で周りの方に聞きました。初風さんはトークでも、「こんな日が来るなんて思わなかった」と何回もおっしゃっていました。本当に愛情豊かな方なのだと思います。

初風さんは、コロナ禍になる前までは僕の舞台を毎回見に来てくださっていました。そのつど、「大人っぽくなったわね」とか「今回はちょっと今までにない感じね」と感想をおっしゃってくれて、本当にずっと見守ってくださっています。なので今回の『レジェンド~』は、今までとは違った感じでした。それは幸せなことだし、舞台のよさでもあると思うのです。舞台って足を運ぶ文化なので、公演があれば楽屋などでも会えたし、だからこそ育めた関係なのだと思います。コロナ禍になってなかなか人と会えなくなった今は、それが余計に愛おしく思えます。そんなふうに家族のようなお付き合いができる人に出会えたのは舞台の世界ならではで、この仕事のすてきなところだとあらためて実感します。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第110回は2月19日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_