写真=@teppei

五輪で最高のパフォーマンスは発揮できない

――試合当日に最高のパフォーマンスを発揮するためには、どのようなことを意識して調整するのでしょう。

五輪に関しては、本番で最高のパフォーマンスなんてできないと思っています。4年に1度の祭典、しかも自国開催で緊張しないわけがないし、あらゆるプレッシャーがのしかかる。コロナによる延期もそうですが、環境に翻弄されやすく、自分だけでコントロールできるものは少ないんです。

だからこそ正直に言えば、自分に期待していなかったし、120%の力が出るなんてみじんも思っていませんでした。半分の力が出たら万々歳かなと。東京五輪で100%の力を出すなんておこがましいと思っていたからこそ、半分の力でも勝てる準備をしようと、異常なほどの稽古に取り組めたのだとも思います。それが自分の仕事でもあると認識していました。

ただ、いい準備ができているかどうかのバロメーターがありました。

――バロメーターとは?

試合前の調整期に稽古をやりすぎると、試合の時に疲労がたまる状態になるので当然よくありません。リオデジャネイロ五輪の時も、監督に「それ以上、稽古をするな」と止められました。でも自分の中では、「止められるぐらいじゃないとな」と思っていました。周りが止めるぐらいの異常な稽古をしたという証拠だから。自分で限界を作らなかったという証しであり、勝てる準備が整ったという目安になります。周囲から止められるまでやっている自分を誇りにも思いました。

自炊では「鍋」が定番

――コンディションを整えるといった点では、どのように意識しましたか。

例えば食事に関しては、階級制で減量があるので、普段からあまりたくさん食べられないのが前提にあります。また、たくさん食べてからのトレーニングはしんどいので、朝起きたら飲み物だけで軽く済ませてトレーニングに出かけたり、朝昼兼用の1日2食にしたり。動く前に軽く食べ、夜はしっかり食べるなど、意識するのはそれぐらいでしょうか。

――今はすべて自炊されているのですか。

はい。試合前は絶対に外食しないです。塩分過多にもなってしまうので。冬の晩ごはんなら、野菜とお肉をポン酢でいただく鍋が多いです。おかずメインでお米は取りすぎず、質素で薄味の料理を。厳しい食事管理はしていないし、 「勝負飯」もありません。「試合前にこれを食べなきゃいけない」と決めるのは良くないと思っています。

例えば、海外の試合では、前日の夜8時に計量があり、その後に体をリカバリーするために、すぐエネルギーになる炭水化物を補給するんです。「私はおにぎりでなければダメだ」となると、おにぎりにありつけない環境で試合があったときは、「勝てない」という思考になってしまう。「カップ麺でも大丈夫」「カツ丼がなくても平気」と食に神経質になりすぎない鈍感力が必要。睡眠に関してもそうですね。

睡眠環境などに神経質になりすぎないことが重要という(写真=厚地健太郎)

――確かに。ホテルに宿泊したらベッドも枕も変わります。

東京五輪の選手村は段ボールベッドでしたが、睡眠環境に神経質になりすぎると、段ボールというだけで気になり、良質な睡眠が取れない可能性もありますよね。

私自身、心地よい自分の家のベッドでも稽古で疲れすぎて寝付きが悪いときがあります。全日本合宿で使うナショナルトレーニングセンター内の宿泊施設のベッドでも、あまり良く眠れないんです。それはベッドが悪いのではなく、「朝寝坊してはいけない」「明日も朝からキツイ稽古が待っている」と気持ちが合宿モードになるので、ある種の緊張状態か、交感神経が高まるのか、ぐっすり眠れないんですね。だから睡眠環境はあまり関係ないかなと。

そもそも、栄養バランスの整った食事や、睡眠をしっかり取って体を整えるのはトップアスリートなら当然です。その上で重要なのは、いかにいいトレーナーさんに出会えるかだと思います。予期せぬケガや加齢で疲労が抜けないなど、どれだけセルフマッサージやストレッチで予防していても、自分の力ではどうにもならないことがあります。そこはプロに任せるしかないと。

私は愛知に住む、柔道経験もある素晴らしいトレーナーさんと出会えました。毎週土曜日に奈良まで来てくださって施術してもらい、支えられて、五輪まで駆け抜けられました。ケガや痛みを最小限に防いで試合に臨めたのは、五輪にも帯同してくださったそのトレーナーさんの力添えが大きく、感謝しかありません。そんな腕の良いトレーナーさんと出会えるかどうかは縁や運、人徳もあると思いますが、アスリート同士で情報を共有すべきだと思いますね。

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