
はるか2800万光年離れた銀河に、土星サイズの惑星が潜んでいるらしいとする研究成果が2021年10月25日、学術誌「Nature Astronomy」に発表された。確認されれば、これまで発見された中で最も遠くの惑星となる。
2800万年前、遠く離れた渦巻き銀河で、青く若い恒星が苦境に陥っていた。
この恒星は、強力なパートナーの天体(おそらくはブラックホールか中性子星)との連星系だったが、パートナーの重力は極めて強く、若い恒星の外側を吸収していった。恒星からプラズマが引き剥がされると、太陽の100万倍もの強さのX線が放出された。
その後、X線で輝くこの星の手前を何物かが通過し、われわれの視界から数時間にわたってこの星の光を遮った。
それから2800万年後の12年、地球を周回するX線望遠鏡が、この星からの信号の一時的な低下をとらえた。宇宙物理学者ロザンヌ・ディ・ステファノ氏率いる研究者チームは現在、X線を遮ったこの謎の物体は、これまでに発見された中で最も遠く、最も過酷な環境にある惑星だった可能性があると主張している。
論文によると、渦巻き銀河内にあるX線連星系「M51-ULS-1」は、太陽から天王星までの距離と同じくらい離れた位置に、土星サイズの惑星をもつとみられるという。
もしこの惑星がほんとうに存在するなら、M51-ULS-1は「銀河系外惑星」(われわれが属する天の川銀河の外で発見された惑星)をもつことがピンポイントで確認された初の星系となる。
「この惑星候補が別の銀河で発見されたという事実には圧倒されます」と、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者ディ・ステファノ氏は語る。
この天体がほんとうに惑星であるかはまだ確認されておらず、今後、X線の周期的な減光が複数回起こるかを見ていく必要がある。ただし、この天体は軌道を一周するのに数十年かかると予想されており、さらに複数回の減光を確認するとなれば100年以上かかることになる。
「ある程度の知識はもっていても、結果はふたを開けてみるまでわかりません」と米マサチューセッツ工科大学の系外惑星研究者クリス・バーク氏は言う。
それでも、今回の研究は、遠い銀河にある惑星を探すための新たな手法をもたらしてくれた。また、惑星はこれまで考えられていたより過酷な星系でも存在できる可能性を示唆している。
銀河系外惑星を見つける方法
天文学者が銀河系内で太陽系外惑星を探す主な手法は、惑星が周回する恒星を観測するというものだが、ほかの銀河にある恒星に応用するのは簡単ではない。「たとえば対象が1000倍遠くにある場合、検出できる光の強さは100万分の1に減少します」とディ・ステファノ氏は言う。「これは大変な違いです」
これまで、銀河系外の惑星を探すうえでは、天文学者たちは重力レンズ効果に頼っていた。重力レンズ効果とは、恒星のような大きな天体が自身の周囲の時空をゆがませ、入ってくる光を曲げる現象のことだ。遠くにある光源と地球の間を恒星が横切った場合、地球から見ると、その恒星のレンズ効果によって一時的に多くの光が集められる。
もしその恒星が惑星をもっていた場合、重力レンズの形にも影響が及ぶ。たとえばそれは、カメラのレンズに小さなガラスの塊を付ければ、写真がかすかにゆがむようなものだ。こうした変化を検出することで、恒星の周囲に惑星があるかどうかを推測することができる。