これと同じような状況で地震を引き起こしたものは何なのか。今回の論文を執筆した米アリゾナ大学の地震学者エリック・カイザー氏とその研究チームは、それを知るために小笠原諸島沖の地震を詳しく調べることにした。この地震は世界中の地震計で計測され、日本のHi-net(高感度地震観測網)でも検知された。
研究チームは、Hi-netの大量のデータのなかから、本震の後で起こった余震をより分けた。今回のような大規模な地震は、エネルギーが地下のあらゆる方向で跳ね返り、小さな余震が検出しにくくなることがある。様々な雑音のなかに紛れているかすかなシグナルを目立たせるために、研究者らは逆投影(バックプロジェクション)という手法を採用した。すると、震源の深さが695~715キロの余震が4回起こっていたこと、さらに、それよりもはるかに深い751キロでも1回発生していたことが明らかになった。
深発地震のメカニズム
深発地震はすべて、現在または過去の沈み込み帯の近くで発生する。沈み込み帯とは、2枚のプレートがぶつかり合い、一方がもう一方の下に沈み込んでいる部分のことだ。沈み込んだプレート(スラブ)が地下深くで変化することで、地震が起こると考えられている。
しかしいまだに、どうやって地下深くで地震を起こせるほどの力が蓄積するのかはわかっていない。マントルが上部と下部に分かれているのと同じような現象が関係しているのではないかと、多くの科学者は考えている。
上部マントルは主にかんらん石で構成されているが、下へ行けば行くほど鉱物の結晶構造が不安定になる。深さ約410キロより下では原子の再配列が起こり、かんらん石はワズレアイトやリングウッダイトと呼ばれる鉱物に変化する。スラブ内でもかんらん石が変化して、スラブに弱い部分が生じ、急速に変形して深発地震が発生する可能性はある。
しかし、深さ約660キロになると、状況は一変する。この付近で地震波は踊るような動きを見せることから、その下の岩石の密度が上の岩石よりもはるかに高いとわかる。下部マントルが始まる境界線だ。
下部マントルを主に構成しているのは、ブリッジマナイトという土色の鉱物だ。もしここで地震が発生するとすれば、かんらん石の変化とは別の原因によるものに違いない。
沈み込むスラブのなかで、かんらん石とは別の鉱物が変化し、地震を引き起こした可能氏もある。しかし、カイザー氏の研究チームは以下のように、スラブの動きのなかに原因を見いだそうとしている。
太平洋の海底で沈み込んだスラブは、先端部分が上部マントルと下部マントルの境界を突き破って下部マントルに入り込んでいる。マグニチュード7.9の本震に続いて起きた今回の余震は、このスラブの底付近で発生したようだった。研究チームは、本震がスラブの一部をごくわずかに沈ませた可能性があると考えた。「ごくごくわずかですが」と、カイザー氏は言う。そのわずかな沈下によってスラブの底の部分に力が集中し、余震をもたらす結果になったのではないかという。
沈み込むスラブの構造や、今回の余震の位置をさらに解析し、モデリングを行えば、この地震だけでなく、その他の深発地震のメカニズムについても理解が深まるかもしれない。中国科学技術大学の地震学者、張海江氏は「一つのメカニズムだけで説明がつくものではないかもしれません」とコメントしている。
(文 MAYA WEI-HAAS、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年10月31日付]