検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

『ナイツ・テイル』大千秋楽で初心に帰る(井上芳雄)

第105回

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。ミュージカル『ナイツ・テイル-騎士物語-』が11月29日に福岡の博多座で、全公演の最終日となる大千秋楽を迎えました。大阪、東京、福岡の3都市で3カ月にわたる全89公演を無事に終えることができて、感謝と喜びの気持ちでいっぱいです。福岡公演の合間には、僕が学生のころに通っていたダンススタジオを訪れる機会があり、ミュージカルを学んでいる若い人たちの話を聞き、初心に帰る気持ちになりました。

3年前の『ナイツ・テイル』の初演は東京と大阪での公演だったので、福岡で上演するのは今回が初めて。僕の地元なので、これまでなら終演後に同級生や知り合いと飲みに行くことも多かったのですが、コロナ禍の今回はそういうことはなく、いつもと違う過ごし方でした。でも、久しぶりに地元で長期間の公演ができたし、お世話になったダンススタジオを訪問したり、前回の「『講演』で得た気づき 自分を見つめ直す」で書いたように母校で講演したりもあったので楽しい滞在でした。

博多座は毎日満員。福岡のお客さまはいつも温かいのですが、今回は拍手からもより熱い気持ちが伝わってきました。コロナ禍で、ここ2年くらい劇場に来ることが少なくなっていたと思うし、非日常の体験を楽しんでくれているのが感じられました。カーテンコールでのやりとりでも、博多弁をしゃべるとすごく喜んでいただけて、そういうところでも故郷のありがたさが身にしみました。

地方公演の楽しみといえば、共演者と地元のおいしいものを食べに行ったりすることですが、残念ながら、それもできませんでした。でも、出前をとるとき、誰かが「このお店のこれが美味しいらしいから、とりませんか」と誘ってくれて、みんなで頼んで、「おいしかったね」と言い合ったり。一緒に食べられない分、そんな味わい方もありました。福岡はいろんな食べ物があるので、みんな楽しそうだったし、僕もうれしかったですね。

振り返ると、89公演の中にはいろんな回がありました。はっちゃけたときもあれば、新しいことが浮かばないときもあったし、本当に毎回それぞれ。演出家のジョン・ケアードが、何回やってもそのたびに息づくような世界をつくってくれたので、90回近くもやれたのだと思います。ジョンは役者に自分の思いを演技に反映させることを許してくれて、すごく自由な空間を与えてくれました。それなら、人は楽に息ができるし、体がきつくても回数を繰り返すことができると思うんです。周りを見ていても、1人1人がすごく生き生きしていました。それぞれに細かい問題はあったかもしれませんが、大きな目で見ると、心地いい空間だったと思うし、それがお客さまにも伝わったように思います。

そうやって大千秋楽を迎えたわけですが、実は僕も共演者の堂本光一君も、最後の日の雰囲気がちょっと苦手なところがあります。楽屋では片づけが始まっているし、コロナ禍の前だったら、関係者の方々があいさつに来て「おめでとうございます」と言いあったりしたし、いつもと違う空気なんです。役者の感情もそうで、「これで最後は寂しいな」とか「みんなともお別れか」とか「最後なのに間違えたら嫌だな」とか様々な思いが交差します。光一君はそれが苦手で、「いつも通りやりたい」と言っていたし、僕も同感。今まで積み上げてきたからこそ、最後もこれまで通りやりたいという気持ちになります。光一君は「千秋楽で初日に戻る」というようなことを言っていました。長い公演のなかで、いろんなことをやったりもするけど、最後はシンプルに、最初につくったところにまた戻っていくと。それを聞いて、最後だからこそ初心に帰るということなのかなと思って、それもまた美しい舞台のあり方だと感じました。

光一君とは、公演が終わりに近づくにつれて、先の話をすることが増えました。初演では、初めて一緒にやる新しいミュージカルを成功させたいというのが僕たちのテーマだったと思うんです。3年たって再演を無事に終えた今は、『ナイツ・テイル』がどうなるかもあるけど、40代になってそれぞれやりたいこともあるだろうし、また一緒にやるのなら、僕たちだからこそできることは何だろう、という話になります。共演もいいだろうし、前から言っていることですが、光一君が演出してくれたミュージカルに僕が出るのもいいかもしれません。残念ながら、逆はちょっとできないですけど(笑)。

『ナイツ・テイル』がまた再演される可能性もあるでしょうし、もし自分たちがやらなくなったとしても、違う人たちでやるとか、違う国でやるとかになって、作品として残していけたらいいなと。今回の再演でだいぶ形が定まってきたので、それはこの作品に関わったみんなが願っていることだと思います。

夢への第一歩を踏み出したダンススタジオ

福岡では、僕が中学2年生から高校生までの間、レッスンに通っていたダンススタジオ「乙成孝二ダンスヴィレッジ」が、スタジオをリニューアルしたとうかがったので見学に訪れました。恩師の乙成孝二先生はミュージカルやエンタテインメントを愛していて、造詣も深く、ちょうど僕が中学生で入ったときに、ミュージカルクラスを立ち上げました。当時、福岡に来た劇団四季の『キャッツ』を小学生のときに見て、ミュージカル俳優を志していた僕は、乙成先生に出会って初めて自分よりもミュージカルを知っている人に出会い、ダンスや歌はもちろん、芸事への向かい方や人としての生き方を教わり、夢への第一歩を踏み出しました。

そのミュージカルクラスは、今はプロ養成コース、ビジターコース、ジュニアミュージカルコースに分かれていて、僕が見学させていただいたのはビジターコースのレッスンでした。下は中学生から上はOLさんのような方まで幅広い年齢層で、15人くらいいたかな。ほとんどが女性で、それは僕がいたころと変わっていませんでした。

僕は、何をきっかけにミュージカルをやろうと思ったのかを知りたくて、生徒さんに聞いてみました。僕たちの世代は『キャッツ』を見てという人が多く、その次の世代になると、『ライオンキング』という人も増えてきます。その日の生徒さんたちは、宝塚歌劇を見て、という人が半分くらい。『キャッツ』や『ライオンキング』、『リトルマーメイド』という人もいたし、僕の『エリザベート』を見て、という人もいました。僕が学生だったころは福岡に劇場がなかったけど、今は博多座やキャナルシティ劇場ができて、そこで宝塚や東宝や劇団四季のミュージカルを見て、やりたいと思ったそうです。いろんな作品を実際に見られるようになって、ミュージカルに興味を持つ人が増えたことを実感しました。

プロを目指しているわけじゃないけど、趣味というか、経験としてミュージカルをやってみたいという人たちがいたのも、すごくいいと思いました。スタジオもプロ志望の人だけを対象にしていたら厳しいでしょうし、自分の楽しみとして歌ったり踊ったりする人が増えると、すそ野がもっと広がっていくと思います。そんな思いもあって、生徒の皆さんには、「ミュージカルはやることが多いから大変だけど、僕たちプロだって楽々と歌や踊りや演技をやっているわけではないから、少しずつ慣れていけばよくて、まずは楽しんでほしい」といった話をしました。

中学生くらいの女の子からは、こんな質問を受けました。「私は学校の勉強があって、レッスンもやって、家のこともあって、毎日が本当に大変なのですが、井上さんが学生のころはどうでしたか」。たしかに、僕もこのスタジオに通い始めた中学生のときは、学校や受験の勉強があるし、塾にも行っていたし、部活や生徒会もあって、抱えていたことが多いなかで芸事を続けていくのは大変だったな。今でもそれは同じなんだ、と知って、はっとしました。その子には、こんなふうに答えました。

「学生のときって、やらなきゃいけないことが多くて、時間が足りないことも多いから、全部を全力でやるとなると、息切れしちゃう。だから、そのつど優先順位をつけてやったらいいよ。特に芸事は、もちろん絶え間なくレッスンする必要はあるけど、ほかの勉強や家のことを優先する時期があっても当然だし、ときにレッスンに来られなくなってもかまわないから、芸事だけを根を詰めてやらなきゃいけないということではないと思うよ」

僕たちが毎日舞台に立っているのもそうだけど、芸事と生活は地続きだし、そうあるべきだと思うんです。芸事のために生活を犠牲にするという考え方は、僕たちの世代まではまだあったし、プロを目指す過程でそういう時期があってもいいけど、本来は生活の中に芸事が自然に存在するのが一番望ましい姿だと思います。舞台を見ることも、歌ったり踊ったり演じたりすることも、生活の一部であってほしいし、それが例えば悩み事や大変なことを解決する力やきっかけにもなるかもしれないし。

スタジオで生徒さんたちと話していると、自分が生徒だったころを思い出します。先生にちょっと言われたことにも一喜一憂していたし、現役の俳優の方の話を聞く機会はあまりなかったですが、あれば一言一言が重かったと思います。今は逆に自分が生徒さんに語りかける立場になり、責任も感じました。自分がそうだったように、舞台俳優はときに人の人生を変えてしまう可能性がある仕事だとあらためて認識したし、自分の出身スタジオに限らず、僕で役に立てるなら、新しい才能が出てくる手助けもしていきたいなと。

『ナイツ・テイル』の千秋楽にも通じることですが、地元福岡の地であらためて「初心に帰る」気持ちになりました。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第106回は12月18日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_