日経エンタテインメント!

光一君とは、公演が終わりに近づくにつれて、先の話をすることが増えました。初演では、初めて一緒にやる新しいミュージカルを成功させたいというのが僕たちのテーマだったと思うんです。3年たって再演を無事に終えた今は、『ナイツ・テイル』がどうなるかもあるけど、40代になってそれぞれやりたいこともあるだろうし、また一緒にやるのなら、僕たちだからこそできることは何だろう、という話になります。共演もいいだろうし、前から言っていることですが、光一君が演出してくれたミュージカルに僕が出るのもいいかもしれません。残念ながら、逆はちょっとできないですけど(笑)。

『ナイツ・テイル』がまた再演される可能性もあるでしょうし、もし自分たちがやらなくなったとしても、違う人たちでやるとか、違う国でやるとかになって、作品として残していけたらいいなと。今回の再演でだいぶ形が定まってきたので、それはこの作品に関わったみんなが願っていることだと思います。

夢への第一歩を踏み出したダンススタジオ

井上芳雄が中学・高校生のころ、レッスンに通っていた、福岡の「乙成孝二ダンスヴィレッジ」を訪問。後列左端が乙成孝二先生

福岡では、僕が中学2年生から高校生までの間、レッスンに通っていたダンススタジオ「乙成孝二ダンスヴィレッジ」が、スタジオをリニューアルしたとうかがったので見学に訪れました。恩師の乙成孝二先生はミュージカルやエンタテインメントを愛していて、造詣も深く、ちょうど僕が中学生で入ったときに、ミュージカルクラスを立ち上げました。当時、福岡に来た劇団四季の『キャッツ』を小学生のときに見て、ミュージカル俳優を志していた僕は、乙成先生に出会って初めて自分よりもミュージカルを知っている人に出会い、ダンスや歌はもちろん、芸事への向かい方や人としての生き方を教わり、夢への第一歩を踏み出しました。

そのミュージカルクラスは、今はプロ養成コース、ビジターコース、ジュニアミュージカルコースに分かれていて、僕が見学させていただいたのはビジターコースのレッスンでした。下は中学生から上はOLさんのような方まで幅広い年齢層で、15人くらいいたかな。ほとんどが女性で、それは僕がいたころと変わっていませんでした。

僕は、何をきっかけにミュージカルをやろうと思ったのかを知りたくて、生徒さんに聞いてみました。僕たちの世代は『キャッツ』を見てという人が多く、その次の世代になると、『ライオンキング』という人も増えてきます。その日の生徒さんたちは、宝塚歌劇を見て、という人が半分くらい。『キャッツ』や『ライオンキング』、『リトルマーメイド』という人もいたし、僕の『エリザベート』を見て、という人もいました。僕が学生だったころは福岡に劇場がなかったけど、今は博多座やキャナルシティ劇場ができて、そこで宝塚や東宝や劇団四季のミュージカルを見て、やりたいと思ったそうです。いろんな作品を実際に見られるようになって、ミュージカルに興味を持つ人が増えたことを実感しました。

プロを目指しているわけじゃないけど、趣味というか、経験としてミュージカルをやってみたいという人たちがいたのも、すごくいいと思いました。スタジオもプロ志望の人だけを対象にしていたら厳しいでしょうし、自分の楽しみとして歌ったり踊ったりする人が増えると、すそ野がもっと広がっていくと思います。そんな思いもあって、生徒の皆さんには、「ミュージカルはやることが多いから大変だけど、僕たちプロだって楽々と歌や踊りや演技をやっているわけではないから、少しずつ慣れていけばよくて、まずは楽しんでほしい」といった話をしました。