がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」を立ち上げ

――同じく2019年に、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」を立ち上げられました。この活動内容を教えてください。

事の発端は、2018年にがんとの共生社会についてのシンポジウムがあり、当社の取り組みを私が発表したことです。その時に保険会社のアフラックさんから、社内でがん経験者のコミュニティを作る、という話を聞いたのです。「サッポロでも作りたい」と思い、後日、そのコミュニティの会合に寄せてもらいました。参加者の皆さんは生き生きした顔をされていて、「これは素晴らしい」と。帰ってから社内のがん経験者に意見を求めたら「待っていました!」「ぜひ参加させてください」との声がありました。人事部内の了解と経営承認を得て、2019年3月に「Can Stars」を発足しました。ダイバーシティや健康経営の一環として、がん経験者同士の相互支援、がん経験者が安心して働くことができる社内体制の整備などを目的に掲げています。

「Can Stars」の社内会合の様子

具体的な活動は、社内会合を開いてがん経験者の体験や思いを共有したり、体験談をイントラネットで一般社員に発信したりしています。がん患者同士などで相互支援するピアサポート[注1]活動として、相談対応のスキルを学ぶこともあります。新型コロナの前は、一堂に会する場で行っていましたが、現在はオンライン主体で活動しています。

[注1]「ピア(peer)」は仲間や同士の意味。ピアサポートは、同じような悩みや経験を持つ人同士が支え合い、サポートし合うこと。支えられていると感じることで、不安の解消や悩みの解決につながることが期待されている。

企業合同のピアサポート研修やビールづくりプロジェクトも

――さらに村本さんは、企業合同でピアサポーター[注2]を育てるWorkCAN’s(ワーキャンズ)という活動にも参加されていますね。

WorkCAN’sは、がん患者の就労支援に取り組んでいる一般社団法人CSRプロジェクトを中心に、当社やカルビー、電通などのがん経験者ら有志が参加する、いわば同じ志を持つ仲間の部活動的な運動体です。以前から他の企業のがん経験者と交流し、企業内のコミュニティでもピアサポートのスキル(傾聴、相手を受容する力など)をきちんと身に付けるべきではないかという話が出ていました。そこで、2020年9月に初めて企業合同ピアサポート研修をオンラインで開催し、39人が参加。2回目は2021年5月に行い、100人が学びました。

――そのWorkCAN’sが2021年の春、ビールづくりのプロジェクトを始められました。タイトルが「生きている喜びを心から実感できるビール」とあり、興味をそそられます。

WorkCAN’sの課外活動のようなもので、以前から一緒に取り組んでいるコアメンバーだけでなく、ワークショップを開いて一般参加者の意見も取り入れ、どんなビールがいいかを考えていきます。サッポロビールにはHOPPIN’ GARAGE(ホッピンガレージ)という、お客様との共創によるビールづくりの枠組みがあり、こちらを活用します。これまでに2回のワークショップが終わり、試作品のアイデアが出ている段階で、2022年夏の商品化を目指しています。がんだけでなく、コロナも含めて様々な事情や不安を抱える人たちが、「人生いろいろあるけれど、喜びもあるよね」と実感できるような、おいしいビールになるといいなと思っています。

[注2]ピアサポートを行う人のこと

病気のことだけでなく、日ごろから何でも言い合える風土に

――がんの治療と仕事の両立ができる社会になるために、何が重要だと思われますか。

まず、知っていただきたいのは、当社はもともと、治療と仕事の両立支援を大きな柱としていたわけではありません。ダイバーシティや働き方改革などに関連してできることを見つけたり、これまでになかったことを足したりして今の取り組みがあります。両立支援のためには制度ばかりがクローズアップされがちですが、私は対話の方が重要だと思っています。制度があれば確かに安心ですが、制度をきちんと運用できるのは、社内での対話があってこそだと思います。もちろん、がんのことを開示するかどうかは本人の自由ですし、「がんだと知られて、余計な心配をかけるのではないか」と躊躇(ちゅうちょ)する気持ちも理解できます。ただ、自分の病気のことを開示できれば、必要な配慮を得ることができるので、そこはよく考えていただきたいです。

そのためには、日ごろから何でも言い合える風土づくりが大切です。病気になった社員一人ひとりにいろいろな思いがありますし、企業は多様性を理解して受け止め、少しずつでもその社員ができることを支援してもらえればと思います。

私は働くことを支える意識には、2つあると考えています。その人の所属や職位に応じた役割意識と、そもそも一人の人間としてその人の内面から湧き上がる使命感です。前回(「がん再発を経験した元部長の『自分だからできること』」)では、私の人生の使命をお伝えしましたが、大病を経て人生と向き合ったがん経験者には、自分でも気がつかないような、他者に貢献したいという使命感が隠れていると思うのです。その使命感や思いを率直な対話で引き出すことができれば、企業にプラスに働くでしょう。

――最後にがんの治療と仕事を両立している人に、アドバイスをお願いします。

がんになった人にはまず、自分の可能性を信じてもらいたいです。とはいえ、ポジティブであり続けるのは難しいので、時には自分の弱さを受け入れることも大事だと思います。そして、会社や患者の仲間、家族など、人とのつながりを大切にしてください。人とのつながりが実感できると「自分はここにいていいんだな」と存在価値を再確認できる喜びが生まれます。

(ライター 福島恵美)

村本高史さん
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター。1987年サッポロビール入社。2009年春に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。2011年夏、人事総務部長の時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声教室に通い、食道発声法を習得。2014年から社内で「いのちを伝える会」を始め、通算50回、約600人が参加。以降、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立ち上げなど、治療と仕事の両立支援策を推進。現在、NPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事、厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」構成員を務める。

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