がんになって見えてきた人生の目的と使命

――仕事をしながら通った食道発声教室の卒業は、感慨深いですね。

2014年春の発声教室の卒業は、人生の一区切りだと思います。この頃から、今後、自分が生きていく上での軸となるものをしっかりと定めた方がいい、と思うようになりました。

そこで思い出したのが、私ががんになる前にサッポログループで経営幹部層を育成するために行っていた研修のセッションです。自分の人生の目的と使命を考え、皆の前で宣言するというもの。自分の人生の目的と使命が、仕事における目的と使命とも合致していれば、十分な力を発揮できる、という考えのもとに行われました。当時の私は研修の事務局にいて、その様子を見ていたのですが、正直、目的や使命ということにピンとこなかったのです。でも、がんになってからの自分は、人生について深く考えることができました。

たどり着いたのは「私の人生の目的は、喜びと感動に満ちあふれた大きな物語を体験すること。私の人生の使命は、生きていく上での勇気や希望を人々に提供していくこと」でした。そのためには何をやっていくべきか。いろいろと紙に書き出す中で出てきたのが、社内での対話の場づくりと、がんの闘病体験を語る「いのちを伝える会」でした。

がん体験を通して語り合う「いのちを伝える会」

――対話の場づくりと「いのちを伝える会」は、具体的にどのような取り組みなのですか。

社内での対話の場づくりについては、目の前の仕事の話だけでなく、もっと根底にある仕事や会社への深い思いを語り合い、組織の課題を聞き取る場が必要だと思いました。2014年秋から私は専門職となり、社内のコミュニケーションの活発化を提案し、特に本社内でヒアリングやミーティングの場を作り、課題解決の後押しをしています。

「いのちを伝える会」も2014年秋から始めました。最初は関心のありそうな社内の7~8人に声をかけ、終業後に会社の会議室に集まってもらい、私のがんの経験を話した後、皆で意見交換しました。自分の体験を伝えることは、健康な会社の仲間にとっても、人生や働く意味を考えるきっかけになるのではないかと思ったのです。意見交換の後は場所をビヤレストランに移し、雑談もしながら懇親を深めました。社内だけでなく、遠方の事業所や工場などにも私の方から会の開催を働きかけ、「ぜひやろう」と言ってくれたところには出張して出かけました。終業後だけでなく、就業時間内に話をする時間を取ってくれたところもあります。これまでの参加者は通算で約600人に上ります。

――私もがんになった後、この先自分はどう生きていけばいいかを考えました。がんイコール死ではないのですが、大病をするとやはり、いのちに限りがあることを強く意識します。今、健康なビジネスパーソンにも、自分の人生の目的や使命を考えてみてもらいたいです。

順調に暮らしている間は、人生の目的や使命を考える必要性を、なかなか実感しにくいのでしょう。ただ、健康に限らず、仕事で思いがけない異動があったり、家族やプライベートで思わぬ出来事があったりした時には一度立ち止まり、目先のことだけでなく人生を大きな視点で捉えてみるのが大事だと思います。

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後編では、社内で推進している治療と仕事の両立支援について伺っていく。

(ライター 福島恵美)

村本高史さん
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター。1987年サッポロビール入社。2009年春に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。2011年夏、人事総務部長の時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声教室に通い、食道発声法を習得。2014年から社内で「いのちを伝える会」を始め、通算50回、約600人が参加。以降、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立ち上げなど、治療と仕事の両立支援策を推進。現在、NPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事、厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」構成員を務める。

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