恐竜絶滅は春に始まった 小惑星衝突の季節を特定

日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/21
ナショナルジオグラフィック日本版

約6600万年前、直径10キロメートルほどの小惑星の衝突によって引き起こされた大地震は、現在の米国ノースダコタ州にあった川を泳いでいた魚の群れを土に埋めた。この魚の化石を詳細に分析した結果、小惑星が衝突したときの北半球は春だった可能性が高いことが明らかになった(ILLUSTRATION BY JOSCHUA KNUPPE)

約6600万年前に恐竜の時代を終わらせた小惑星の衝突は、北半球の春に起きた可能性が高いことが、衝突後1時間以内に死んだと思われる魚の化石を分析することで判明した。この化石は米国のノースダコタ州で見つかった。

2022年2月23日付で学術誌「ネイチャー」に発表された論文によれば、化石の骨に残る成長パターンから、魚は餌が豊富になって成長が加速した時期に死んだことがわかるため、衝突の季節は春だったと推定される。近年、この衝突が最悪のシナリオをたどった可能性を示唆する証拠が集まってきているが、今回の発見もそうした証拠の1つだ。

白亜紀末に直径10キロメートルのチクシュルーブ小惑星が現在のメキシコ沖に衝突し、地球上の生物種の75%以上が死滅した。この衝突により、想像を絶するような大地震が発生し、高さ50メートル以上の津波が北米の海岸に襲いかかった。衝突による噴煙と、それに続いて大量に降り注いだ高温の破片によって山火事が発生し、衝突地点から数百~数千キロ離れた場所まで燃え広がった。

最初の大災害に続いて、地球上の生物は恐ろしい「衝突の冬」に直面した。大気中に放出されたガスや粒子が数カ月~数年にわたって太陽の光を遮った結果、気温が約30度も低下し、中生代の生態系が根こそぎ破壊されたのだ。

これまでは、衝突の冬が起きている間に最も多くの種が絶滅したと考えられてきた。だが、小惑星が衝突した季節が北半球の春だったのであれば、北半球にすむ生物の多くはこの現象に直面するほど長くは生きられなかっただろう。春は、多くの生物が食べ物やパートナーを求めて外で活動するからだ。一方で同じ頃、南半球の動物たちは秋から冬にかけて活動を控えていたと考えられ、大災害の初期にはわずかに有利だった可能性がある。

「衝突を生き延びられなかった動物には、核(衝突)の冬を経験する機会さえありませんでした」と、論文の筆頭著者であるスウェーデン、ウプサラ大学の博士課程に在籍するメラニー・デュアリング氏は言う。「小惑星が衝突するのにこれ以上悪い季節はないと思います」

時間の中で凍った魚

今回の論文は、米ノースダコタ州のタニスで見つかった大量のチョウザメとヘラチョウザメの化石に関する最新の研究成果だ。魚のエラに入り込んだ破片は、魚たちが小惑星の衝突から約1時間以内に死んだことを示唆している。19年に米誌「ニューヨーカー」に掲載された記事によると、タニスからは、まだ学術誌に発表されていない化石が他にも多く発見されているという。

タニス化石発掘地は、古代エジプトの失われた都市タニスにちなんで名付けられた。私有地の牧場内の小さな露頭(地層や岩石が土や植物に覆われず、直接地表に現れている場所)にあり、恐竜絶滅までの数十万年を記録した地層が重なっているヘルクリーク累層の一部だ。17年にオランダ、アムステルダム自由大学の修士課程の学生だったデュアリング氏は、同大学の古生物学者ヤン・スミット氏と、タニスの発掘調査を指揮していた古生物学者のロバート・デパルマ氏を含むチームとともにタニスを訪れた。

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古代の魚の骨に隠された手がかり