日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/19
サウスジョージア島には、ペンギンとしては世界で2番目に大きいキングペンギンが数万羽生息している。震源からの距離を考えると、彼らは2021年8月の地震には気づかなかったかもしれない(PHOTOGRAPH BY PETER FISHER)

世界を揺るがす奇妙な地震

最初の見た目ですぐに解明できる地震はまれだ。もちろん、ニュージーランドで16年に発生したカイコウラ地震のように一目瞭然のものもある。この地震では12個の断層がとびとびに破壊されたが、解明はそれほど難しくなかった。

「カイコウラ地震は表面破壊によるものだったからです」と、米国大学間地震学研究連合(IRIS)の地震学者ケイシー・アダーホールド氏は説明する。氏は今回の研究には関与していない。「破壊された断層は地表から見えたので、研究者はその上を歩いて調べることができました」

21年のサウスサンドイッチ諸島の奇妙な地震はそうではなかった。「震源は深く、海の下にあり、人間が住んでいるところから遠く離れていました。破壊が起きた場所に触ることも、その上を歩くこともできませんでした」とアダーホールド氏は言う。同諸島には地球物理学の観測基地もなければ、沈み込み帯のきしみに耳をすます海底地震計もなかった。

研究者たちがサウスサンドイッチ諸島の地震のしくみを解明できたのは、152の地震計からなる地球規模のオープンアクセスネットワーク「グローバル地震観測網」のおかげだ。米国地質調査所(USGS)と全米科学財団(NSF)が共同で運用する同観測網は「本当に重要です」と賈氏は言う。この観測網が遠隔地の地震を記録していなければ、今回のような奇妙な地震を解きほぐすことはできなかっただろう。

ただし、謎は残っている。マグニチュード8.2の破壊が津波を引き起こした可能性は高いが、その詳細はまだ明らかになっていないのだ。

「多くの津波で、地震に伴う海底地滑りが見られます」と、英南極観測局(BAS)の海洋地球物理学者ロバート・ラーター氏は言う。「個人的には、サウスサンドイッチ諸島の地震もそうではないかと考えています」。それを確認するには、ソナーを装備した船や無人潜水艇で海底を調べ、その様子を以前の海底地形図と比較するしかない。

地質学者たちは、サウスサンドイッチ諸島の地下にある沈み込み帯が、今後も大地震を引き起こす可能性があるかどうかも考えている。21年の地震破壊は広範囲に及び、強力だった。「ということは、あと500年か1000年程度は、このような大規模な地震破壊は起こらないのでしょうか?」とヒックス氏は言う。この地域には観測機器が不足しているため、「答えを出すのは本当に難しいのです」

今回の5連続地震の発見のおかげで、次に同じような地震が発生したときには、その正体に気づきやすくなるだろう。「地震データの中から、今回の地震と同様のゆっくりした破壊現象を検出しやすくなるので、より迅速で正確に、警報を発することができるでしょう」とハバード氏は言う。

とはいえ、地震の観測データから津波の発生を予想し、被害をできるだけ抑えようと努力している科学者たちが裏をかかれるのは、これが最後ではないだろう。ラーター氏が言うように「自然界は驚きに満ちている」からだ。

(文 ROBIN GEORGE ANDREWS、写真 PETER FISHER、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月19日付]