
沈み込むプレートと深まる謎
サウスサンドイッチ諸島の地下深くでは、南米プレートが1年に7センチメートルという緩やかな速度でサウスサンドイッチプレートの下に潜り込んでいる。時間の経過とともに、この部分にひずみが蓄積してくる。やがてそれに耐えられなくなった地殻が破壊され、ひずみが一気に解放されるのが地震であり、場合によっては津波を発生させることもある。
津波は通常、何かが大量の海水を動かしたときに発生する。地震に伴う津波の場合、「その引き金になるのは海底の変形です」とハバード氏は言う。しかし、津波を引き起こすような地震は、十分に浅いところで発生する必要がある。
21年8月12日に発生したマグニチュード7.5の地震は、震源の深さが47キロメートルと深かったため、「地球規模の津波が発生する可能性は非常に低かったのです」とジェー氏は言う。その直後に起きたマグニチュード8.1の地震は、震源の深さが約23キロメートルとやや浅く、こちらは津波を発生させる可能性があった。
しかし、一連の地震から得られた波形は乱雑だった。2つの地震は非常に短い間隔で発生していた。波形は、まるで人が話している最中に別の人が叫びだしたような形になっていて、解読不能なノイズが大量に発生していた。自動化された地震観測システムでは、2回目の地震のマグニチュードや場所や震源の深さについて一貫した数値を導き出すのが困難だった。
「私たちは何かを見落としているのではないかと思いました」とジェー氏は言う。


埋もれていた地震
それからの数カ月間、賈氏らは複雑にからまり合った地震波形を解きほぐし、干渉を取り除き、カオスの中から個別の地震を1つずつ特定していった。その結果、21年8月12日に発生した地殻の破壊は2回ではなく5回であり、そのすべてがわずか260秒の間に起きていたことが明らかになった。
「大きく見れば、これは1つの地震です」とヒックス氏は言う。ただし、複雑で強力だった。「この地震で、沈み込み帯の大部分が破壊されました」
最初の破壊による地震のマグニチュードは7.2で、持続時間は23秒。2回目の破壊によるマグニチュードも7.2で、持続時間は19秒だった。当初マグニチュード7.5とされた地震は、この2つが合わさったものだった。また、4回目の破壊による地震のマグニチュードは7.6、5回目は同7.7で、どちらも短時間だった。
問題は3回目の破壊だった。マグニチュードは8.2と非常に大きく、5回の地震のエネルギーの大半がここで放出されていた。その上、始まりから終わりまで180秒という長い時間を要した地震だった。長い間3回目の破壊が気づかれなかった理由の1つはここにある。それまで地震を探すのに使っていた「フィルター」が不適切だったのだ。
ゆっくりした揺れによって生じる地震の波形は、突然の破壊によって生じる典型的な地震の波形とは異なっている。賈氏がフィルターを変更して観測データを分析し、ゆっくりとした地震破壊を探したところ、突如としてこの現象が現れた。
3回目の破壊による地震は、より強力で、より長く続いただけでなく、震源の深さが14キロメートルと浅く、地球規模の津波を引き起こす条件を満たしていた。