
2021年8月12日、南大西洋の極寒の海に浮かぶ無人の英領サウスサンドイッチ諸島で、謎の地震が連続で発生した。最初にマグニチュード7.5の地震が、その3分後に同じ地域でマグニチュード8.1の地震が観測された。
サウスサンドイッチ諸島は複数のプレートが衝突する場所にあるため、地震の発生自体は不思議ではない。奇妙なのは、地震後に、はるかかなたの大西洋、太平洋、インド洋の沿岸で観測されるほど強力な津波が発生したことだ。
この津波による大きな被害はなかったが、3つの大洋で津波が観測された地震は、04年に発生し甚大な被害をもたらしたマグニチュード9.1のスマトラ島沖地震以来だった。

ある種の地震が津波を引き起こすことは知られているが、サウスサンドイッチ諸島で発生した地震は震源が深すぎるため、海底を大きくたわませて膨大な量の水を動かすことはないと見られていた。「これは大きな謎であり、地震学研究者にとっては大きな挑戦でした」と、米カリフォルニア工科大学で地球物理学を専攻する大学院生のジア・ジェー氏は言う。
ジェー氏らは数カ月がかりで、この謎めいた連続地震のしくみを解き明かした。氏らが2月8日付で地球物理学の専門誌「Geophysical Research Letters」に発表した論文では、実際には5回の大きな地震破壊が数分おきに発生し、1つの巨大地震を構成していたと結論づけている。そして、5つの地震のうちの1つは、当初は地震波形のノイズの中に埋もれていたが、複数の海洋に津波を起こすのに十分なほど強く、浅い場所で発生していたとわかった。
この奇妙な地震現象を解明することは、地震が津波を発生させるしくみの理解につながる。「地震に伴う津波の発生を予測できるかどうかは、初期段階での地震の評価に大きく左右されます」と、シンガポール地球観測所の構造地質学者ジュディス・ハバード氏は話す。「今回の地震は、現状の津波検知システムの性能が十分でないことを物語っていると思います」。なお、氏は今回の研究には関与していない。
一連の地震はまた、地球の複雑さを把握することの難しさを研究者に思い知らせた。「時代が進み、観測する地震が増えるほど、地震はより奇妙に、複雑になるような気がします」と、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの地震学者スティーブン・ヒックス氏は話す。氏も今回の研究には関与していない。